第19章 策動
「君達は此処に居給え」
「「はっ」」
紬はとある企業の建物に来ていた。
高層ビル郡に存在する立派な建物だけあって、すれ違った社員も皆、多忙そうだ。
そんな建物の一番上のフロアにある、一際大きい扉の前で紬は連れてきていた男2人に待機を命じ、案内係と共に中に入った。
「社長、お連れしました」
「ああ、ご苦労様」
紬の入室に気付き、社長と呼ばれた男は机から立ち上がり、先に座った紬の向かいへ腰掛けた。
「御多忙の所、態々、時間を割いて頂きまして有難うございます」
「いえ。私の多忙さなど貴女に較べたらきっと大したことありませんよ」
「うふふ。お上手ですね」
出された紅茶を啜りながら紬はニコッと笑った。
「御付きの方は宜しかったのですか?」
「慣れていないでしょう?我々のような存在に」
「……。」
社長と呼ばれた男は笑顔を作ってはいるが、緊張を隠せないでいた。
それを一瞬で見抜かれて焦りまで混ざる。
「安心して下さい。今回、我々の方が貴方に交渉にきたのですから。無礼を働く気も陥れる気も毛頭ありません」
ニコッと笑う紬に、失礼、と一言断って息を吐く社長。
「話を聞くだけでも構わないと?」
「構いませんよ。貴方が『裏社会』の人間と一切関わらずに此処まで会社を大きくされた手腕も、その心構えも感心しているところです。私の交渉が貴方のその信念に反するならば断られても当然かと思っていますから」
「そこまで御存知ならば何故、我が社にいらっしゃったのですか?」
「ふふっ。少しは興味を持って話を聞く気になりました?」
「っ!」
危険だ、この女性(ヒト)はーーー。
社長は賢かった。
紬はゆっくりと頷いた社長の賢さにクスッと笑って
紅茶の入ったカップを置いて、脚を組んだ。
「交渉よりも先ず、私の話を聞いていただきましょう」
とてもマフィアの人間とは思えないほどの笑みを称えながら紬は話を始めた。