第19章 策動

国木田と別れて直ぐに太宰は端末の操作をし、耳に宛てた。

「うーん。紬が嫌いそうな反応をしてしまうなあ国木田君は」

『そう、ではないよ。国なんとか君のことは嫌いだ』

コールの間にぼやいたつもりだったのに思わぬ返事がやって来る。


「ありゃ、繋がっていたのか」

『掛けてきておいてその反応かい？だったら切るよ』

「あー！ごめんっ！私が悪かったからっ！許して！」

慌てて謝るとクスクスと笑い声が返ってきた。
取り敢えず、許しを得たのだと解釈した太宰はコッソリ息を吐いた。

『それで？一体、何の用だい？』

「あー。そうだった。紬『一番大切なモノの記憶を奪う』異能力者のこと何か知らない？」

『急だね。理由は？』

「その異能力者の被害が続出していると探偵社に依頼があったのだよ」

『被害者が？冗談だろう』

「……その返しじゃあ何か知ってるね？」

太宰は矢っ張り、と溜め息を着く。

『治に流せる程、確かではない情報ならあるけど。それでも訊きたいなら正直に話すのが筋ではないかな？』

「依頼人はスキャンダルに脅えている政治家だ」

『ああ、合点がいった。未だ来ぬ恐怖に先手を打ってきたわけだ』

「そゆこと。で？」

『急ぐの？』

「いや？如何せ狙われるときは狙われる。調査依頼は受けたけど護衛依頼を受けたわけではないからね」

『そう。今、裏を取ってるところだからその結果も合わせて帰ってから話すよ』

「表？裏？」

『新規』

「………ああ、そういうこと」


何となく察した太宰はこれ以上訊かなかった。


『じゃあ私、今日は事務以外の仕事ばかりだから切るよ』

「ん。また夜ね」

『今日は早く帰るから』

「待ってる」

そういうと通話を切った。


部下らしい男の声が２種類と車の音。
向こう側から微かに聴こえていた音から察するに本当に外回りなのだろう。



「今の紬の傍に居て大丈夫な人間……中也の部下って云ってたっけ」


端末を懐に入れて太宰は置き去りにしていた国木田の元へ戻る事にした。