第18章 本心
しかし、直ぐに太宰はパアッと明るい笑顔を作った。
「そうだよねー紬は私が1番大好きだものねー」
あ、ただのバカップルだ。
山吹は太宰兄妹が何とも突っ込みがたい会話をしている間に逃げ出したかった。
ーーー勿論、そうはいかないだろうから黙ってその場に立ち尽くしているのだが。
「あ、それ飲みたかったやつ!うん、分かったー大人しく待ってるから出来るだけ早く帰ってきてよー」
じゃあねーと通話を切った太宰を見ながらハッとした。
紬が帰ってくることを失念していたのだ。
「太宰幹部っ、もう帰ってくるんですか!?」
「うん?まあ、購い物終えたら帰ってくるんじゃあないかな?」
「ですよねー………」
山吹は如何しようか考えている様子だ。
「紬に会いたくないのなら早くお帰り」
「………はい」
「今日のこと、紬には話さないって約束するよ。中也の家の件は……紬の機嫌を損ねるから協力できないけど」
「!」
太宰が苦笑しながらそう云うと山吹は一礼した。
「充分です。寧ろ、取り返しのつかない事になるところでした。色々と教えて下さって有難うございます」
「いえいえ。可愛い女の子は何時でも大歓迎だよ。気を付けて帰ってね」
深々と礼を述べた山吹を昇降機の場所まで送り、見届けると太宰は部屋に戻った。
そして、購い物袋を手に取ると昇降機を通り過ぎて階段の方へと歩き出した。
そのまま2階分の階段を登り、迷い無く1つの扉の前に立って鍵を開ける。
「ただいまー」
そう云いながらリビングと廊下を隔てた扉を開ける。
「「おかえり」」
最後のおかずをテーブルに置いた中也と、そんな中也の手伝いなど全くせずに既にワインを飲んでいる『太宰』が『太宰』を出迎えたのだった。