第18章 本心
なにやら絶句している山吹を太宰は暫く黙って眺めていたが、あきたのか。はたまた理由を察したのか。
何時もの調子で声を掛けることにした。
「紬に用事かい?折角、赴いてもらったところ申し訳無いけど未だ帰宅してないのだよ」
「いえ、私が用があるのは太宰幹部ではなくて………!」
あ、しまった。
そう思ったときには時既に遅し。
「じゃあ私に用事?うーん…此処で事を荒立てると紬の機嫌が最悪値まで下がって、後々大変な目に合うのは君達の方だと思うけど」
「あ、いやっ……それも違いますっ…!」
機嫌が悪い紬には先日遭ったばかりなのだ。
此処で誤解されることだけは避けなければならない山吹は、太宰の言葉を否定して理由を説明せざるを得ない状況になってしまった事に頭を抱えたくなった。
「うふふ。その慌て振りなら紬を怒らせたことがあるのかな?」
「……その通りです」
「それでは何の用かな?」
「あの………中原さんに会いたくて………」
「……。」
太宰の顔があからさまに崩れた。
そして、ジッと山吹の手にある袋を眺めている。
「嗚呼……あの蛞蝓、体調でも崩してるの」
「なっ…蛞蝓?」
「中原ってチビで口もセンスも何もかもが最低な中也のことでしょ?」
「なっ!?」
確かに山吹の云う中原は中也だが、太宰の言葉には同意しかねて言葉を詰まらせた。
「嗚呼、察した。だから紬の仕事がここ数日増えて帰りが遅いわけか」
「っ!!」
山吹も察した。
目の前に居る人物は絶対に敵に回してはならない人間だ、と。
「それで、君は帽子置き場なんかに差し入れでも渡したいわけね」
「帽子置き場……」
「あ、勿論中也のことだよ」
「………そうですか……」
資料によれば、かつて中也とペアを組んでいた相手だ。
もしかしたら色々あって仲が悪いのかもしれない。いや、絶対に仲は良くないでしょ、この人と中原さん。
山吹は取り敢えず太宰に合わせた。
「で?中也に用事なら何で此処に来たの?」
「あっ……えっと………その」
矢張りはぐらかすことは出来ないようだ。山吹は此処に居る経緯を簡単に話すことにした。