第18章 本心
「矢っ張り嬉しい………」
小声で云ったつもりだった声に樋口がパッと反応する。
「確かに、予想だにしない訪問は男心を捕まえられそうですね!」
「そうですかね……」
「そうですよ!堅物気取りの立原ですら嬉しいと云っていたくらいですから、きっと男は不意討ちされたら意外にコロリと落ちてしまうものなんですって!」
「でも、彼、風邪はもう治ったみたいだし」
「別に理由なんて如何でもいいじゃないですか!ちょっと近くにきたからとかでも!」
「でも、彼、引っ越ししたばかりで未だ新居の住所を教えてもらってないんです」
「むっ!?それは困りましたね」
「はい」
「その幼馴染さんに訊いてみるとかは?」
「私はその方とは個人情報をそう簡単に教えてもらえるほど仲良くはないので」
「……そうですか」
うーん。
樋口が考え出す。
こういった話を気兼ねなく出来るのは同世代だからだろうか。
真剣に考えてくれている樋口に思わず笑みが溢れる。
「あ!幼馴染さんにそれとなく彼の家に行くことないかを聞いて、尾行するのは!?」
「!」
名案を思い付いた!
そういわんばかりに目を輝かせて樋口は云った。
山吹は「それはちょっと……」と苦笑して返すと「ですよねー冗談です」と笑って云う。
が、山吹の脳内は違った。
その通りだ、と。
心の中で樋口に感謝し、それを実行すべく仕事に取り掛かったのだった。