第18章 本心
「姉さん。これ、芥川の兄貴から」
「先輩からですか!?」
入ってきたのは自分の直下の1人、立原だった。
差し出された書類をシュパッと俊敏に受け取り、中を確認して「やったぁあ!」と喜び始める。
どうやら一緒に任務にいけるようだ。
「……何か悩んでる様子だったのに変わり身早いっスね」
「あ、そうだった!」
立原の言葉で我に帰る樋口はピコンッと何かを思い立った顔をした。
「立原は好い人は居ますか?」
「はっ!?いいい居ませんよ!?何っすか!?急に!」
居るんだな、と勘の鋭い女性陣は悟る。
「もし貴方が風邪を引いて、ですよ。その好い人が差し入れを持ってきたいと云ったら如何します?」
「えっ………!あ、いや、嬉しいけど断りますね」
「「なんでです!?」」
「うぉっ!?」
凄い勢いで2人に迫られて思わず後退りする。
「いや、本当に恋仲ならそりゃ頼みますけど、まだ付き合っていない思い人なら弱ってるところを見せるのは一寸……」
「「いや、だから何でですか!?」」
立原は勢いが衰えない2人に思わずヒイッと声を上げるほどに怯えながら続ける。
「いやっ、矢っ張り恥ずかしいというより情けねーしっ……!理想の兄貴がそんなタイプだしっ……!」
「確かに!先輩は誰にも弱味を見せませんね!」
樋口がキラキラとした目で納得する。
「まあ、芥川の兄貴もだけど俺の理想は中也さんだし」
「中原さんもそんなタイプなんですか!?」
今度は山吹が食い付く。
「えっ……部下には絶対に弱味を見せないでしょ、あの人。それに気を遣わせない気遣いが半端無ェし正に漢の中の漢ですよ兄貴は」
立原の答えに口許が緩むのを必死に抑える山吹。
そうか。大切にされている可能性が未だ残ってる……
そう思って喜ぼうとしたが。
「まあ、でも本音を云えば……見舞いに来てもらえたらすげェ嬉しいッスけどね、矢っ張り」
成る程!とメモを取り始めた樋口を「急に何してるんだ?」と云う顔で見てから立原は去っていった。
その言葉が頭から離れないまま山吹は残りの業務時間を過ごしたのであった。