第18章 本心
樋口の書類整理を手伝っていると温かいお茶を出してくれた。
「あ、有難うございます」
「もう大分、落ち着きました?」
「はい」
遠慮なくお茶に口を付けて返事をする。
「?」
そして、ふと樋口の顔を見て思ったのだ。
「樋口さん、恋人居ます?」
「んぐっ!?」
口にしたお茶を吹き出しそうになったのを堪えてゴホゴホと咳き込む。
「こここここ恋人ですか!?いやっ!自分と先輩はそんな関係じゃあ!!?」
「先輩?」
「イエ、ナンデモアリマセン」
コホッと咳払い1つついて話を戻す樋口。
「で?なんでしたっけ?恋人ですか?居るわけないじゃないですかーーはあ、先輩……」
と半ば投げやりに答えるも「恋人と何かあったんですか?」と問い掛ける優しさはあるようだ。
「いや、私も恋人がいるわけじゃないんですけど………好きな人は居て……」
樋口がどことなく安堵した顔をして、にこやかに話を聞き始める。
「はい、それで?」
「なんか…幼馴染の女性の事は頼るのに私の事は頼って貰えなくて」
「その幼馴染の方と恋仲なのでは?」
「違います。これは他の人達も否定しているので間違いありませんし、その女性には最愛の人が既に居るんです。指輪もしてました」
「それは確かに違う……となると中々に手強い相手ですね、彼」
「……樋口さん。愉しそうですね」
「そうですか?」
ニヤニヤしている樋口に釣られてクスッと笑う山吹。
「彼、この間、風邪を引いたんですよ」
「イベント発生ですね!」
「はい……。で、差し入れを名目に家に行けたらなーと思ったんです」
「ほうほう。確かにそれは好感度アップに繋がりますね!」
「私もそう思ったんです。でも……私の申し出は断ったのに、その幼馴染の女性に差し入れを頼んでて……」
「それは……家が近いとか?ですかね」
「!」
樋口が云った言葉にハッとする山吹。
「後はそうですね……。『弱っている姿を見せたく無い』とかではないでしょうか?」
「……幼馴染の女性には見せるのに?」
「うーん、確かに。難しいですね」
2人でうんうん唸っているところにガチャリと音を立てて誰かが入室してきた。