第18章 本心
「中原さんは年下ですけど落ち着いていますし、優しいです」
「え。あのチビッ子の何処が落ち着いているって?」
「チビッ子!?いやっ!中原さんが冷静さを失うのは何時も太宰幹部に予定を狂わせられたときだけのようなーー……」
「え?」
「え?」
ちょっと何云ってるのか判らない。
先刻までの恐怖など微塵も感じさせないほどの間抜けな笑顔を称えて首を傾げる紬。
「ああ、そうか!分かったよ!君の云う『中原さん』と私の云う『中也』はきっと別人だね!」
「いや、同一人物です」
こんな風に和やかに話しを進めながら書類を片付けていった2人だった。
「もうこんな時間か。休憩してきて良いよ」
ふと時計を見れば午後1時を過ぎていた。
「太宰さんは食事に行かれないのですか?」
「私は今日、弁当持参だからね」
ひょいっと取り出したのは見覚えのある弁当箱。
「毎日作られてるんですか?」
「いや?気が向いたときだけ」
カパッと開けられた弁当の中を思わず見てしまう山吹。
「美味しそうですね!」
「本当だねえ。いつの間にこさえたか判らないおかずまで入ってて驚いてるよ」
「え?太宰さんのお手製ではないんですか?」
「今日は作ってもらったから私の手作りではないよ」
「へぇー……」
思わずお兄様ですか?と訊きそうになった時。
ピコンッ
電子音が鳴り響き、それを口にせずに済んだ。
電子メールの着信なのだろう。機嫌良くその文面を読んでいるようだ。
「クリームシチューか」
「シチュー?」
「うん。晩御飯はシチュー」
「いいですねーシチュー」
メールの相手に買い物を頼むつもりなのだろう。「鶏肉」「牛乳」「玉ねぎ」などと呟きながら文字を入力しているようだ。
晩御飯、か。
「中原さんはちゃんと食べてるのかな……」
「中也?」
「!?」
脳内で呟いたつもりだったが、声に出ていたようだ。
返事が帰って来て、慌ててしまう。
「そんなに心配なら連絡したら善いのに」
「あ、いやっ…!」
「うふふ。凄い慌てようだねえ。好い人を訊いたときのような反応だよ」
「ふぇ!?」
「このままからかい続けてもよいのだけどそろそろ休憩しておいで」
「は、はい!失礼しますっ!!」
山吹はバッと一礼して、素早く退室していった。