第18章 本心
部屋から出て直ぐに山吹が駆け寄ってきた。
「お疲れ様でした」
「取り敢えず急を要す案件では無かったから部屋に戻ろう」
「はい」
2人は紬の執務室に戻った。
ーーー
「大切なもの、ですか?」
「そ。君は『誰』を想像する?」
紬に紅茶を淹れ、机に置いたところで質問されて考える山吹。
「……矢張り恋人ではないでしょうか」
「へぇー君、恋人居るのか」
「へ?いやっ、違っ!!」
顔を真っ赤にして慌て始めたら山吹をニヤニヤしながら見る。
「そんなに慌てちゃったら隠せるものも隠せないよ」
「うぅ……お恥ずかしい限りです」
顔を両手で覆う。
あんなに気を張っていて、冷酷などと云われていても矢張りその辺の一般女性と変わらないんだ
世間でいうところの「恋バナ」を、先ほど人を簡単に殺した冷徹な人間である筈の紬と普通の会話として行っていることに山吹は内心、安心した。
「因みに、どんな人?」
「えっと……落ち着いていて一緒にいると安心できる人です」
「と云うことは年上かな?」
「はい」
「付き合って何れくらいになるんだい?」
「えっと……私が20の時からなので、もうすぐ4年でしょうか」
「思っていたより長い付き合いだね」
書類に記入しつつ「へぇー」と感心しながら会話を続ける。
「私は世間一般と云うのに疎いのだけど、それほどの期間を付き合っていて結婚は?」
「あ、一応プロポーズされたんですけど私も彼も仕事を始めたばかりだったからそれが落ち着くだろう半年後に入籍をと約束してまして」
「おー!現実的だねえ。あと何れくらいなんだい?」
「あ、1ヶ月切った頃です」
「あれ?君、半年経ってなかったの?」
「はい」
「それなのに首領に幹部補佐として引き抜かれたのか。よほど優秀なんだねぇ」
「とんでもありません!」
山吹は顔を真っ赤にして、パタパタと手を振り慌てる。
「ふふっ。落ち着いていて傍に居たら安心できる人ねえ。覚えておこう。でも、そういう人がタイプなら中也は真反対だから苦労してるのではないかい?」
「そっ、そんなことありませんよ!?」
ピクッと肩を弾ませて、若干上擦った声で慌てて否定した。