第18章 本心
あの時、
駆け付けた時には緊迫した場面な上に、紬の身体はかなりの危険に晒されていた。
何時も通り、我らが上司は何時も通りにブチ切れながら紬の『迎え』に行った。
手は拘束されており、目の前の男同様に壁に繋がれていた。
しかも殴られたのか。口の端からは血も滲む。
此処までは良く見られる状況だったが、その時は違った。
ーーー着ていた服は乱暴に引き裂かれて、下着に手を掛けているところだった。
そして、我ら上司の目の前で見せ付けるようにその下着を完全にずらされて、覆われていた部分を露出させられても紬は笑っていた。
極めつけは
『あれ?予定より2分早いけど。中也らしくない失敗だなあ』と云う台詞。
ーーーその後は、手枷を一瞬で外した紬に対して『そんなに簡単に逃げられるなら何で大人しくしていたんだ、この人』などと考える前に、完全にキレた上司が暴れ回り、紬に乱暴をはたらいていた男達は建物よりも跡形なく殺されたりなんだり。
何が云いたいかって。
『凡てが紬の計画通りなんだよ。一々苛ついてもしょうがねぇ……苛つくけどな』
長年、相棒をやっている上司でさえ無理矢理納得するほど『どんなに不利な状況でも紬が関わっている時点で凡てが計画通り』
ーーーつまり『弱い』『雑魚』と認識して『紬を拐う』こと自体が、既に紬の策に嵌まっていると云うことと同意なのだ。
「ああ、これかい?」
紬の声が回想を強制終了させた。
ハッと現実に戻る。未だ現在進行形で仕事中なのだ。
2人は目の前の光景に意識を戻した。
いつの間にか進んだ場面において、紬が手に持っているのは何処かに持っていたのだろう。注射器だった。