第18章 本心
「はぁ。こんなに早く片付く人間の始末なんて態々私でなくてもよかったんじゃないかい?」
「いや、太宰さんだから出来る事です」
「我々にはとても……」
そう?と云いながら2人が男の死体を拘束壁から退かした。
「却説、次はっと」
椅子から立ち上がり牢屋に近付いていく。その紬の顔を見て1人が青褪め、1人は震えながら頭を抱え、1人は何かに気付いた。
「あ………あ?…貴女は……この間、警察と一緒に………大学に……」
「「!?」」
恐怖のあまりか言葉が途切れ途切れだ。
が、紬には何が云いたいのか理解できたのかクスクスと笑い始めた。
「君が見ていたのは光。反して私は闇だ」
「………。」
詩人みたいな物言いだが、誰もツッコミを入れることは無かった。
意味は判らずとも「闇」なのは判る。
無駄のない会話で……。
短時間の数少ないやり取りだけで躊躇いなく、人を殺したのだから。
その光景を今し方、目の前で見たのだから。
これ以上の理由は誰にも無かったーーー。
「私はマフィアで警察なんて組織、縁遠いものさ。君が見たと云う人間とは別人だ」
「「……。」」
中也の部下達の頬を冷たい汗が流れていった。
男ーーー『大学講師』だった人物が指しているのは間違いなく紬の兄、太宰治の事だろう。
触れてはいけない禁忌に触れる男に中也の部下達は気が気でなかった。
「誰と勘違いしたのか訊く気はないけれど、その事を否定するために次はこの壁に君を繋ぐべきかな?」
「ヒッ…!」
満面の笑みで云った紬に男がササッと後退りする。
「ふふっ、そんなに怯えなくてもいいよ。今のところ君を殺す気は無いから」
「「……!」」
紬の一言で一緒に容れられている男2人の顔が一気に色を失った。
何方でも良いけど、とショーケースに並べられた菓子を選ぶ程度の軽い気持ちで繋ぎ服を着た男を壁に繋ぐように指示を出した。
「こんにちは」
「……ハッ……ハッ……」
繋がれた男に笑顔で挨拶をする紬。
が、勿論。
男はそれどころではない。息をすることすらやっとのようだ。
「うーん。可笑しいなあ。昨日、捕らえた時は随分と余裕だったのに」
紬は態とらしく首を傾けて考える仕草をした。