第17章 芽生
食器を片付け終わり、洗濯機のスイッチを入れてリビングに戻ってきたタイミングで自身のスマホが着信を告げた。
如何やら電話ではなくメールのようだ。
メールアドレスなど教えていないので電話番号でやりとりする少ない文字数のメールに最小限の内容が記載されていた。
ーーー相手は最近自分の隣に居る女性秘書。
『お加減、如何でしょうか』
却説、如何したものか。
中也は何時も飲む珈琲ではなく刺激の少ない紅茶を口にしながらソファに腰掛けた。
先刻、双子に揶揄われたばかりなのだ。うーん、と唸りながら体調は問題ないことだけを伝えた。
安堵した旨の直ぐに返事が返ってくる。
そして、紬の話題に触れてきたのだ。
「矢っ張り、相当脅かしてやがるな…………まぁ、悪い気はしねーけど」
何に対して悪い気はしないなどと云っているのか。
そんな質問をする人間もこの場には居ない。
「紬のやつ、最低3日っつったか?この調子じゃ明後日には戻るとして……如何すっかな」
昨日、紬の補助を命じていた部下2名から「死にそうです。飲みに行ってきます」と報告が来た。
今まで自分と共に過ごす紬しか見てきていない分、単身で動くーーー
云うなれば本当の紬に脅威を感じたのだろう。
そんな、通常の。
『本当の紬』のところに、ただですら怯えている山吹を行かせるべきか否かで中也は悩んでいたのだ。
ーーーそう云えば××の処分って云ってたなぁ……。
『そろそろ出勤してくるんだろ?今日から俺が居ない間、紬に世話になれ』
中也は先刻のやり取りを思い出して、返信した。
身内の処分なんて幹部しか行わない。
滅多に目に掛かる事など出来ない事案だ。
何れ直面するだろうから良い機会だろうと思ったのだ。