第17章 芽生
「そういえば中也」
「あ?何だ?」
「今、マメに連絡を取ってる……秘書だっけ?」
「ああ。それがなんだ?」
「中也より背の低い、どちらかと云えば可愛らしいタイプの子?」
「そうだけど……」
何でそんな事を訊くのか。
そんな疑問を抱いた瞬間に答えが帰ってきた。
「昨日、私が帰ってきた頃にこの周辺を彷徨いていたのだよねえ」
「………何で家がバレ……嗚呼、この周辺まで彼奴等に送らせたからか」
「今は会いたくないんでしょ?」
「まぁな」
「じゃあカーテンは閉めておいた方が良いよ」
「……珍しく本気の助言だな」
回復してきた以上、中也がジッとしているわけが無いのだ。
外は良い天気。掃除や洗濯でもして日中、のんびりと過ごそうと思っている事を太宰は読んでいた。
「………弁当のお礼」
フイッとしながら云った太宰の答えに納得する。
「購ってきて欲しいモノがあったら私に連絡し給えよ」
「あー………そうだな。いや、手前の食いたいモンの材料購ってこいよ」
「え?嫌味?何の料理に何の食材使うかなんか私に分かるわけ無いでしょ」
「この4年間、如何やって生きてきたんだよ手前は」
「酒とカニ缶と味の素」
「悪ィ。訊いた俺が莫迦だった」
真顔で返されてムッとする。
そこに漸く紬が戻ってきた。
「お待たせ……って如何したの?むくれて」
「中也に莫迦にされた」
紬に抱き着きながら答える。
全然、わけがわからない紬は弁当を2つ手に持っている中也を見る。
「夕飯、食べたいモンの材料購ってこいって云ったんだよ」
「ああ……それで」
なんとなく理解した紬は太宰の背中をぽんぽんと叩いた。
「何食べたいか云ってくれれば材料を連絡するから購ってきて。きっと治の方が早いから」
「ん。昼までに連絡する」
それぞれ中也から弁当を受け取る。
「「行ってきます」」
「行ってらっしゃい」
いがみ合っている最中だったが太宰も中也もすんなりと挨拶を交わした。
ーーーでないと紬の機嫌を損なうからだ。
玄関までは見送らず、
リビングでそれを済ませた中也は食器洗いから始めたのだった。