第17章 芽生
「ところで手前は急がなくて良いのかよ」
「え?何で?」
こてん、と首を傾げる太宰を呆れた目で見る中也。
「ちゃんと働けや社会不適合人」
「何云ってるんだい中也。遅刻せずに出社したら国木田君が驚きのあまり倒れてしまうじゃあないか!」
「………苦労してンな、探偵社も」
何時もよりもゆっくりとした動作で食事を取る中也。
そのペースに合わせる必要がない筈なのに太宰兄妹ものんびりと食事を摂った。
1時間後ーーー
ソファに座って中也の傷口を消毒し、包帯を新品に替える。
ーーー序でに、中也に掛けていた異能を解除したのだ。
「………如何?」
「全く痛くねぇと云えば嘘になるが、この程度なら大したことねぇな」
「回復早いなあ……」
でも念のため、とそっと中也に触れる。
「心配性だな」
「そんな事ない」
「……紬が気にする事じゃねーよ。手前で選んだことだ」
「……。」
そう云われて返答に困った紬は、
その一部始終を隣に座って見ていた太宰の胸の中に飛び込んだ。
クスクスと笑いながら紬の頭を撫でてやる太宰。
「ほらね。云った通りでしょ?」
「……。」
太宰の掛けた言葉で、中也は紬が口に出さずともずっと心配していたのだろう事を悟った。
ーーーまあ、判ってはいたが。
服を着て立ち上がった中也を不思議そうに見る太宰。
「何処行くの?」
「弁当詰めてやるから早く仕事に行け。紬もそろそろ出るんだろ?」
「ん」
「え、私のも?中也にしては気が利くね!」
「………無しにすンぞ」
「わー嘘嘘!ほら紬、一緒に出るよ」
「支度する」
何時も通りの紬に戻って、部屋に着替えに行く。
それを見ながら太宰はフッと笑った。
「此れで少しは本調子に戻るでしょ」
「手前と違って怪我だけは嫌がるもんなァ」
「紬が一緒に行かないときに限って2人揃ってボロボロになって帰ってくることが多すぎたからでしょ」
「………だな」
心配されて悪い気はしないものの、調子を崩す紬を見るのはなるべく避けたいという仲が悪くても一致している、共通理念の1つなのだ。