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【文スト】対黒・陰

第17章 芽生


うっすらと明るみを帯びた世界。

紬は片隣に在った筈の気配が無くなったことに気付き、目を覚ました。

「?」

右隣を見れば………。
否、見らずとも腰に回されピタリと引っ付いている片割れでないとするならば居ない方が誰かは明白だった。
紬は兄を起こさないようにそろっと腕から抜け出して寝室を出た。


「………何してんの」

「何って……朝飯の準備」


リビングに出て直ぐに目的の人物は見付かった。
はあ、と呆れた様子で息をはいて中也に近付いた。

「身体は?」

「ダルさも熱っぽさももう無ェよ」

「そ」

「腹も減った」

「それは本当に回復してきた様だね」

「おう」

額に手を当てながら問う紬に、手を止めずに答える中也。

「消化の良いものにし給えよ」

「判ってるっつーの」

米を炊飯器にセットして冷蔵庫から食材を取り出し始める。
中也の言葉に嘘が無いことを確かめ終わった紬はカウンターキッチンの前に置いているダイニングテーブルに座って、昨晩、碌に片付けもしなかったツマミに手を伸ばした。

「そういえば中也の部下の2人だけど」

「あ?何かやらかしたかよ」

「いや全然。善く働いてくれているさ。でも何故か『治』の名前を呟いた時だけ素知らぬ顔をしたんだよねえ」

「ああ。絶対に触れるなって躾たからな」

「何時?」

「手前の代わりに組合戦で太宰と共闘した時」

「治のことだから中也を放置して帰ったとばかり思ってたけど」

「彼奴ら組織に入って4年ーー太宰を知らねえ。だから手前と見間違えたんだろ」

「嗚呼………帰宅途中の治に声でも掛けたのか」

「中りだ」

「『可愛い妹を宜しく』って去っていったって聞いて二度と関わらないように警告の意味を込めて教えたんだよ」

「へえ。それを律儀に守るなんて中々に優秀じゃあないか」

「………やらねーぞ」

「ふふ、残念」

ワインに手を伸ばそうとした紬に気付き、グラスに水を注いで渡す。

「朝っぱらから飲むなや」

「良いじゃん一杯くらい。どーせ今日も詰まらない仕事を坦々とこなすだけなんだから」

「手前が真面目に仕事する姿なんざ見る奴がみたら驚愕モンだな」

「中也の部下2名は驚愕してたねえ、そういえば」



大人しく水を飲む紬。

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