第17章 芽生
食事の時間以外、誰も来客が無かった場所に新たに2人の住人が増えたポートマフィア地下牢ーーー
「貴方達も捕まったんですか」
「ああ……」
「……。」
返事をしたのはヒョロっとした繋ぎの服を着ている男の方だった。何処かの工場の作業員のようである。
先住人は、その隣の男をチラリと見た。
そんな工場の作業員と共に来た男は、彼等を此処に連れてきた黒服の男達なんか簡単に片付けられそうな程に逞しい身体をしている。
それなのに、青褪めた顔でガタガタと震えているのだ。
「あの……大丈夫……ですか?」
「………終わりだ…………あの悪魔が現れるなんて…………」
「ずっとこればかり云ってるんですよ」
工場服の男が先住人に云った。
「貴方は?」
「◯◯です。大学の講師をしています」
「大学の先生?!それはまた何でマフィアなんかに?」
「分かりません。私のゼミで3人の生徒が亡くなってしまったんですけどそれが原因の様で」
「!あの大きく報道された例の?違法薬物による異常行動死で死亡したらしいっていう」
男は苦笑しながら肯定した。
「貴方の方は?」
「私はその違法薬物の……『原料』を会社ぐるみで密輸をしていたのがバレまして」
「……そうなんですか」
「先生の生徒以降目立った事件も無く、関心が高まっていた『違法薬物』とやらに、最近は世間様も目を向けなくなってきたものだから稼げると思ったんですけど」
はあ、と溜め息を吐く。
「会社ぐるみーーって云われてましたけど他の方は?」
「逃げられていると思いますよ。真っ先に私とこの男を捕らえて此処に連れてきたくらいだし、この男達の組織はーーー「死んだ」」
「「え?」」
それまで口を挟んで来なかった男が漸く会話に混ざってきた。
「全員、死んだ。次は俺たちの番だ」
奥歯がカチカチと音を立てるほどに震えている。
「いや、でも私も長いこと生きてるし」
「そっ……そうだ。それに私達を捕らえるように云ったマフィアは女だったじゃないか!アンタが怯えるほどの相手じゃ……」
「あの女は、悪魔だ」
男の声が妙に響いた。