第17章 芽生
帰宅した紬はリビングに踏み入れた瞬間に頭を抱えた。
「お帰り」
「……ただいま」
ムスッとした顔の兄と、テーブルに伏せている相棒。
そのテーブルに広がっているのは食べ掛けのつまみと空のワインボトル3本。
「真逆とは思うけど飲ませてないよね?」
「この状況をみて判らない紬じゃないでしょ」
「判りたくないから訊いてるんだよ」
はあ、と溜め息を着いて伏せている相棒の肩を揺らした。
「中也……ちゅーやってばあ」
「……ンぁ……?」
のろっとした動きで顔を上げる中也。
ジーッと紬の顔をみてまた伏せる。
「……帰ってくンのが遅ェんだよ」
「仕方無いでしょ。不出来な部下の尻拭いに駆り出されてたんだから」
ほら、此処で寝ないでと云って中也の腕を取り自分の肩に回す。
「治は未だ寝ない?」
「………寝ない」
目の前のやり取りに更に不機嫌を加速させた太宰はグラスに入っていたワインを一気に煽った。
やれやれ。
紬は中也を寝室に運び、寝かしつけると太宰の前ーーー今まで中也が座っていた席に座った。
「何でこう、怪我人ってことを綺麗サッパリ忘れてくれるかなあ」
「私に云ってるの?」
「両方にだよ」
中也が使っていたグラスにワインを注いで紬も飲み始める。
「で?何を云い争って飲み競べなんて始めたの?」
「特には。何時も通りに話してただけ」
「まあ判ってはいたけど、一応、あれでも怪我人なんだから」
太宰の機嫌は直らないようだ。
紬はワインを凡て飲み干すと立ち上がった。
「風呂入ってこよっと」
「……。」
そう云って隣を通り過ぎようとした手をガシッと掴む。その意図を正しく汲み取ったのか。
紬は太宰の額に唇を落としてから話し掛けた。
「治も一緒に入る?」
「ん」
もう一方の手で紬の頭を引き寄せて唇に噛みつく。
太宰の好きなようにさせるように身体を預ける。
「治も大分飲んだようだね」
「殆ど私が空けたからね」
「そんなに寂しかったの?」
「当然でしょ。なのに帰って直ぐあのチビに構うから」
「……そう怒るなら酒なんて飲ませないでよ」
「……だってぇ……」
「?」
ううん、と首を振った太宰と仲良く風呂場へ向かったのだった。