第17章 芽生
××が退室していったと同時に紬は、んーっと背伸びをした。
本当に××の事など眼中にも無かったのだろう。任務失敗も判りきっていた事だったからか、然して機嫌も悪くないようだ。
紬は時計をチラッとみて立ち上がった。
「ふう。予定より少し過ぎたか。怒ってるだろうなあ…………治も」
「「……。」」
通信端末を取り出しながら紬が嘆いた。
好い人だと思っていた待ち人は、如何やら彼女の双子の兄だったようだ。
彼女にとっては大切な兄かもしれないが、組織からすれば『裏切り者』に違いない男の名を、2人は聞かなかったことにした。
『彼奴の話題にだけは絶対に触れるな。簡単に死ぬことすら許してもらえなくなるぜ』
中也の脅しとも取れる云い付けを守ったのだ。
「じゃあ私は先に失礼するよ。君達も適当に帰っちゃって」
「「有難うございます……」」
パタンッ
扉が閉まるまで2人は気を抜くことなく立っていたのだった。
そして、どちらからともかく盛大に息を吐いた。
「………この人の相棒を7年近くやってるなんて……中也さんは本当に凄い人だな……」
「全くだよ………初めて色んな一面を見たけど………油断も隙もあったもんじゃない………」
疲れた、と。
普段よりも8割増しで襲ってくる疲労感を癒すべく、2人は飲みに行くことを決意して紬の執務室を後にしたのだった。