第3章 出会
次の日。
紬は資料室に来ていた。
「……矢張り面倒な事になりそうだ」
手に取った資料をパラパラと捲って呟くと元の位置に戻す。
そして、溜め息を着きながら資料室を後にした。
「紬君」
「!」
その自分の執務室に向かう途中で、背後から声を掛けられる。
歩いていた足を止めて、声の方を振り向く。
「やぁ広津さん」
ニッコリと笑って返事をする。そして、相手を2秒程見て言葉を続けた。
「外出で?」
「ああ。例の横流しの連中の裏がとれてね」
「へぇー。思っていたより早く片が付きましたね」
「何。君の助言の賜物だよ」
「うふふ。役に立って何よりだよ」
「……。」
何時も通りの彼女の反応。
それを確認して広津は一瞬閉じた口を再び開いた。
「―――芥川君が『太宰君』に会ったと」
「!」
紬はピクッと反応した。
が、表情は何一つ変えなかった。
そして、ふぅ、と息を吐く。
「―――成る程。それで退いてきたわけね」
「……聞いてなかったのかね?」
紬は笑顔のまま頷く。
「私の管轄では無いからね。『芥川君が一旦、退却してきた』と云うことは耳にしたけれど」
「そうか。まぁ、かく云う私も上司が芥川君に対して『太宰って方は、お知り合いだったんですか?』と訊いていたところに偶々、遭遇しただけだからね。誰にも云ってないだろう。然し、一体何処で―――」
そう切り出した瞬間に、広津は後ろから数人の黒尽く目の男に呼ばれる。
広津が振り返ったのと同時に、男たちが紬の存在に気付き慌てて膝を折った。
その顔は心なしか、青い。
「すっ……!済みません!太宰幹部!お話し中にっ……!!!」
男たちの行動に「顔を上げて」と云いながら苦笑する紬。
「只の世間話だから気にしなくて良いよ」
その言葉を聞いて、安堵の息を漏らす。
「時間の様だ。またゆっくり話そう」
「うん。気を付けてー」
部下を引き連れて去っていく広津に手を振って。
紬は今し方見た資料について何かを考える。
そして。
「―――『黒蜥蜴』が暫く使えなくなるとなると……」
紬は呟きながら自分の執務室に入っていった。