第3章 出会
太宰がマフィアを去って4年の月日が経ったある日、紬は手にしていた紙に目を通していた。
コンコンコン
「入り給え」
紬の執務室に来客を告げる叩敲が響く。
その紙を机に置き、入室を許可する。
「失礼します」
入ってきたのは黒い外套で身を包んだ青年―――芥川だった。
「珍しいねぇ。君が私のところに来るなんて」
「……。」
芥川は紬の言葉に一礼する。
その手にも何か書かれた紙の束がある。
「『七十億の賞金首』がこの界隈に姿を現しました」
「あー。例の『人虎』ね」
紬は大した興味がなさそうに返事する。
「それで?」
続きを促すと芥川が手に持っていた用紙を渡す。
その用紙に目を通して紬は何かを考え始めたのか黙る。
「その『人虎』がこの区の『災害指定猛獣』に指定されました。故に、それと並行して屯所の破壊を行おうかと」
「ふーん……」
パサリ。
凡てを読み終わったのか。紙を机に置いて腕を組む。
「芥川君」
「はい」
「君に『生け捕り』が出来るのかい?」
「……。」
その瞳には鈍色の光が宿っている。
芥川の頬をツゥ…と、一筋の汗が流れた。
目を閉じ、小さく息を吐いて。
「必ずや成功してみせます」
真剣な眼差しを紬に向けながら、云った。
紬は急に人が変わった様にニコッと笑ってみせる。
「そう堅くならずとも善いよ。君が指揮を執るのだから私が口を挟むことなどないだろうけども、何かあれば何時でも連絡し給え」
「勿体無いお言葉です」
芥川は一礼して、退室しようとした。
扉に手を掛けたところで「ああ、芥川君」と声を掛ける。
「この懸賞金を掛けた連中の情報を、もう少し詳しく調べておき給え」
「!承知しました」
パタン
芥川が退室してから紬はもう一度、芥川が持ってきた資料…の下の。
最初に読んでいた紙を手に取った。
その紙に綴られている手書きの文に目を落とす。
その紙は、芥川が持ってきた資料の用紙よりも2、3周りも小さい。
それでも余るほどにしか無い―――たった一行の文章。
『会いたい―――駄目なら責めて連絡だけでも』
紬は長い息を吐くと、
その紙を畳んで、机の抽斗に入れた。