第17章 芽生
「………質問宜しいですか?」
「んー?君達もまだ納得出来ないの?」
「いえ、とんでもありません!納得したからお伺いしたいのです」
手をバタバタさせながら否定する。
「じゃあ何?」
「あの……この貿易工場が善からぬ連中と繋がっている可能性は何れくらいなのかなと思いまして……」
ああ、そんなこと。
紬は紅茶に再び口をつけてから云った。
「そんなの百パーセントに決まってるでしょ」
「「……。」」
カチャッという音が妙に響いた。
「薬を大量に入手したところでバイヤーと繋がれなければ只の粉だ。ちまちま売り捌くのも1つの手だろうけど、素人がそんな下手なことをすれば簡単に足が着く」
確かにそうだ。売る側が幾ら配慮しても買う側の大半は一般人だろう。そこから売人に繋がって逮捕されるケースなど珍しくない。
「それと同じことさ。入手場所と売人は切り離されていなければ芋づるだからね。裏を返せば『仕入れ先』さえ隔離し、確保していればバイヤーは下を切り捨てた後でも仕事を続けられる。これは組織の元に成り立つ商売なのだよ。その規模までは判らずとも必ず繋がりはある」
紬は時計を見た。
企画書では午後8時に決行と記載がある。
今は午後4時を過ぎたところだ。
「早く帰る約束をしていたのになぁー」
「「……。」」
人差し指をくるくると時計に併せながら動かしてぼやく。
目の前にある仕事に『応援要請』を追加して想定しているのだろう。
「あぁーー……22時は過ぎるか………連絡しておこうかな……いや…でも機嫌悪くなるし……そうなると……」
ブツブツと考え始める紬を見て2人は何処か安心した。
殲滅の計画は失敗に終わると見抜けたのに、早く帰ると約束したらしい相手の事で悩んでいる紬を見て「嗚呼、この人もちゃんと人間なんだな」と思えたからだ。
恐らく、約束をした相手は紬の好い人なんだろうとまで勝手ながら想像した。
「「太宰さん」」
「………なーに?」
未だ考えていたのか反応が遅れる。
「「出来ることを手伝いますからご用命下さい」」
その様子に2人は少し笑って企画書を返しながら云った。