第17章 芽生
粛清対象は小さな貿易工場だった。
輸入する荷物の中に薬を紛れこませてポートマフィアに隠れて商売をしているという情報を掴み、首領の指示で消すことになったのだ。
その数枚の紙をゆっくりと読み始める2人。
下調べも済んでいるらしく、工場に勤めている26人と云う人数を始め、工場内部の見取り図、攻め入る場所と配置人数まで綺麗に纏められて書かれていた。
配置も、指示が確実に通りやすい程の最小限の人数で遂行できる程度に留めてあり、首領の云う「合理的」な計画だと思わざるを得ない。
その企画書を見る限りでは「準幹部」と威張るだけあるなーと感心するだけのものの様に感じる。
何処に不備があるのか見当も付かない。
「「……。」」
2人のその意を察したのか紬が溜め息を着いた。
「この界隈で商売するとなればそれなりのリスクが伴うことくらい君達は重々承知しているだろう?」
「え…はい、勿論」
企画書を持ったまま、紬を注目する2人。
「ポッと出の民間企業が片手間で行えるほど密輸なんて簡単に出来ることじゃない」
「それは……そうですけど」
「と、なればだ。可能性の1つとしてその密輸を行使して得た資金が何処に流れていて、何処かと繋がっていないかまで調べておく必要があるけど、それらを調べた形跡がない」
「!」
「『工場内部』の見取り図も『具体的な』従業員人数も調べているとなると、おそらく内偵を送り込んだのだろうけど、関連者を調べていないんだ。それらに詳しい相手ーーー元より『此方側』と繋がっているかもしれないことを想定して、既に警戒されているかもしれないということを視野に入れた配置ではない」
「「……。」」
確かに。
民間人を一方的に始末する位ならこの配置人数で充分だがマフィア同士の抗争ならば厳しいかもしれない……
等と2人同時に書類に視線を戻す。
「善からぬ連中と繋がっているとすれば密輸されているのは薬だけではない筈だと見通しを立てられていないーーー他にも挙げたらキリが無いほどに穴だらけな企画書なんだけど何を根拠にああも自信満々だったのか、私は其方が知りたいよ」
紬はやれやれ、と息を吐いた。