第17章 芽生
「もしもし」
『おう、俺だ』
「ちゅっ……中也さん!?」
「!」
男の驚きと、電話の相手に思わず山吹も顔を上げた。
「ぐぐぐ…具合の方はっ…」
『あ?此くらいの怪我、大したこと無ェよ』
「そうですか」
ホッと息を付く部下。
『だが、昨日はデスクワークをして欲しいと云われていた首領が、急に休むように云い出したらしくてよ』
「!」
命令内容を変更した理由に心当たりがあり、一瞬黙ってしまう。
『おい、ちゃんと聞いてンのか?』
「あ、はいっ!済みません!」
『暫く休むわ』
「それが良いですよ!ゆっくり休まれて下さい!」
『その間、手前と彼奴で紬の補佐にまわれ』
「!太宰さんの……ですか?」
『嫌か?』
「いえっ!とんでもないです!太宰さんのお陰でこうして中也さんが…」
『あ"?俺の休みに彼奴が絡んでンのかァ!?』
ダンッ、と大きな物音が電話越しに聴こえ、部下は慌てる。
「そそそそそんなことあるわけないじゃあないですかー。昨日、仕事が増えるってあんなにお怒りだったのにー」
『……。』
棒読み過ぎた。バレたか?
黙り込んだ中也に嫌な汗が止まらない部下その1。
『ま、確かに彼奴が利益無しにそんな気遣いするわけ無ェしな』
「ですよー。だから安心してお休み下さい」
『おう、悪ィな』
「いえいえ、それではーー」
『あー………一寸待て』
切ろうとした瞬間に制止され、はい?と聞き返す。
『あー………お前に頼むのもあれだが……その………山吹に会ったら電話に出るように云ってくれねェか?』
「え。」
中也からの電話だと知り、自分も話したいと云う目で見ている山吹と目があった。
『何度か掛けてるんだが………その……仕事用の端末じゃないからか出ないんだよ…………』
「ふふ……あはははは」
『あ"?何で笑うんだよ!?』
上司が挙動不審でお願いする状況に、部下はその理由を瞬時に悟った。
だからあんなに確りと抱き込んで庇ったのか、とか。
「あはは……済みません!直ぐ伝えておきます!!」
『おう……頼むわ』
少し遅い青春かー可愛いなあ、とか。
中也に直接云おうものなら照れ隠しで一発喰らわせられるんだろうなー……等々、思いながら今度こそ部下は電話を切ったのだった。