第17章 芽生
「敵に捕まって怪我を負われることも銃を突き付けられているような危険な場面もありましたが、本人が抵抗しているところも見たことが無い。寧ろ何時も愉しそうに笑ってますし」
嗚呼……よくよく考えればそれも異常だな
普段、そのような奇行でも中也が大したことなさそうに。少し呆れながら相手していたから『異常』に対して感覚が麻痺しているだけなのだと云うことに、中也を抜きにして考えて初めて気付いたのだ。
「……じゃあ……じゃあですよ……この暴虐の数々は『異能力』なんかでなし得たものではない、と?」
パラパラと読んだだけでも恐怖を抱くには充分過ぎる内容。
それを自分と大して変わらない女性がやってのけているという事実を受け止めきれずにいる山吹。
「仲間が追い込まれた不利で、しかも最悪な状況だとしても『凡て彼奴の計算の内だ』と中也さんは頭を抱えてぼやいてましたし……頭が物凄く良いか、それこそ『未来が見えているか』の何方かでしょうね」
再び、少し青くなりながら云った。
「抑も、本当に異能力者なのか……って意見が割れるところなんですよねえ」
「え……でも先日、本人が『異能力者』って云ってましたよ?!」
「あー………」
山吹は明後日の方向を見て、口にするか否か考え始めた。
そして、教えることにしたのだろう。
同じ上司を持つ仲間だから。
「『成り代わり説』が有効なんですよ、それ。それくらいそっくりらしいので……その……お兄様と」
「!」
山吹は先日のAの云っていた言葉を思い出していた。
確かに、そのようなことを指摘された際、紬は一切の否定をしなかったーーー。
「まぁ、お兄様の方も『異能無効化』という戦闘向きではない異能のようなので本当にただ、頭が良いだけなのかも」
「……。」
山吹は言葉を失った。
ただ、資料の頁を捲り目で負うだけ。
そんな時、中也の部下の通信端末が着信を告げた。
『非通知』の表示に首をかしげつつも失礼します、と山吹に断って電話に出た。