第17章 芽生
本部に戻る車中。
紬は何時も通りーーー
普段、彼等2人の上司の隣にいる時の彼女だった。
通信端末を操作し終わったかと思えば懐から取り出した予定帳を詰まらなそうに見ている。
「面倒くさいなあ」とか「酒のみたい」とか。
自分の相棒が重症であることを一切、気にしていないと……というよりも何事もなかったかのようであった。
何時もと違うのは、話し相手が遊撃隊の部下であることだけ。
その様子に若干の苛立ちを感じるものの、それを表に出すことは死と同意であることを2人はよく理解していた。
それに、苛立ちを感じるものの自分達の上司の為にこうして動いている事には変わりないという事実も相まって、正直なところ、今抱いている感情は言葉に表すことが出来ない。
よって、ただ運転に、ナビに集中する。
そんな2人の思惑を知ってか知らずか。
突然、紬が話し相手を変えたのだった。
「ねえ君達」
「「!?」」
思わずビクッと肩を弾ませた。
そんな焦りを悟られないように平常心を装いながら「なんでしょうか」と返事をする。
思っていた以上に声が上ずっている事が本人でも判るほどだった。
気付かれたらっーーー!
「あの体力莫迦、もし目が覚めても仕事を続けると思うんだよね」
紬はお構い無しに話を続けた。
気に障らなかったのだろう。少し安堵しながら紬の声に耳を傾ける。
いや、一寸待った。
「……中也さんは重体です。目を覚ますなんて……」
「中也が眠っているのは『異能力』が原因だった。怪我のせいじゃない」
「「!?」」
「……。」
紬は予定帳から目を離すことなく続ける。
「その異能者は始末した。君達も目を覚ましただろう?まあ、疲れや怪我も相まって未だ眠っている人間もいるだろうけど中也がそれに該当するとは思ってない」
「……お言葉ですが何故、そう云い切れるのですか?」
「理由なんてないよ」
紬が漸く顔を上げる。
バックミラー越しに見た彼女の顔はニッコリ笑っていた。
「ーーー中也があの程度で、くたばるわけ無い」
そう作られた笑顔で云った言葉が2人に向けて発せられたものではないということに気付いた者は、誰も居なかった。