第17章 芽生
「「!?」」
必死に抵抗して保っていた筈の意識がフワリと戻ってきて中也の部下たちは漸く懐に手を忍ばせた。
が、目の前にいるたった1人の敵さえ、こと切れていることは明白な状況だった。
「15分丁度。腕をあげたねぇ」
「いえ、此奴を取り逃がしていました。まだまだです」
コホコホ、と咳き込みながら紬の部下は答えた。
目の前の男を尋問していた空気はいつの間にか散霧しており、ふぁー、と欠伸をして通信端末を取り出す紬。
電話の話し振りから同じ位置に君臨する女傑に連絡しているのだろう。
漸くそれほどの状況を理解できる程度に回復した中也の部下は電話が切れられたタイミングで紬に話し掛けた。
「……あの」
「ん?なあに?」
「殲滅は……」
「終わったよ。武装を決め込んだところで素人は所詮、素人だからね」
芥川が同意するようなタイミングでコホッと1度だけ咳をする。
「尋問……途中だったのでは……」
「うふふ。こんな小物に訊きたいことなんてあるわけないでしょ」
「いや……でも……え?」
身体に5ヶ所も穴を開けられ、かつ胸から大量に血を流している男の方を2人は見て混乱した。
「ソレはただの暇潰し」
初めてだったのだ。
自分達の上司の相棒『単体』で動く任務に同行したのは。
恐怖を代名詞にするこの人物を目の当たりにするのも初めて。
ゾワッとした寒気が、恐怖が2人を襲った。
『暇潰し』などと云う理由ーーー。
仕事ではなく、ただの遊びで人の命を軽く消し去った上司を真目に見れないほどに。
そんな2人とは打って変わって、あー疲れた等とぼやきながら紬は車に乗り込んでいる。
「「……。」」
唖然とする2人に同じく車に乗り込むために近付いてきた芥川が小声で云う。
「紬さんの行動は常に合理的見解の元に遂行される。『暇潰し』などと云われているが」
話し掛けられたのだと気付き、芥川の方を見る。
「凡ては相棒である彼の方の為にーーー」
「「!?」」
コンコンッと窓を叩く音が話を遮る。
芥川がその意を汲み取り、男達に云った。
「早く車を」
その言葉でハッとした2人は慌てて車に乗り込んだのだった。