第17章 芽生
昨日ーーー
殲滅に失敗した自分の上司の為に、相棒である紬が動くと云った。
いままで数え切れない程に世話になっている上司の為に手伝いを申し出た。
紬はあっさりと了承した。
これで上司の失敗も大事にならずに済むーーー。
そう思えば、先の任務を熟したばかりで決して快調とは云えない状態でも頑張れると思った。
「先刻、任務に行かなかった者も含めて30人程は動けますが」
「要らない」
「「!?」」
2人は思わず顔を見合わせた。
先刻、20人で攻め入って失敗した。
今頃、相手は次に備えて体勢を整えている筈ーーー。
先ほども話した筈なのに紬は欠伸をしながら駐車場に向かって歩いていく。
それにコホコホ、と時折、咳をしながら続く紬の部下、芥川。
「君たちの何方か運転出来るかい?」
「あ、自分が」
もう1人の中也の部下が素早く手を上げる。
じゃあよろしく、と軽い感じで云うと紬は車に乗り込んだ。
「芥川君。正面から這入ってそのまま進んで。あらかた片付いたら状況報告」
「御意」
「あ、そこ左ね。そのまま▲▲倉庫跡地に向かって」
「あっ、はい」
紬がそれ以上、話すことは無かった。
現場に着いて、芥川は云われた通りに単身で侵入していった。
建物の裏側に停めた車のボンネットに座り、紬は書類の束を見ている。
「あの……太宰幹部」
「ん?何だい?」
「私達は一体何をすれば………」
「?君は運転手、君はこの車の死守。この車を壊されたなんてことになったら困るからね。私、歩きたくないし」
「「……。」」
紬は詰まらなそうに云った。
銃撃音や爆音が鳴り響く建物を唯、見るしかすることがない2人ーーー
時折、それらの音が小さくなると通信が入り、それに2、3言返す紬をボーッと見ている。
「そろそろかな」
「「………え?」」
うーん、と紬が伸びをしたとほぼ同時。
自分達を殺気が包んだ。
「……ぐっ……!貴様はっ……!」
「おや、私の事を知っているのかい?いやー光栄だねえ」
手負いの男が建物の方から走ってきて、3人に気付いたのだ。
その男と対峙するためか。
紬はニッコリ笑ってボンネットからピョンと飛び降りた。