第17章 芽生

地上階に出てすぐに伝令の男は先輩に話しかけた。

「あの」

「あ？なんだ？」

「太宰幹部ってそんなに怖いんですか？」

「……。」

その質問に男は少し青褪める。
何時ぞやに伝令の仕事を変わって欲しいと云った先輩と同じ顔をしたのだ。

「いや、先輩って中原幹部と仲が良いじゃないですか」

「勘違いするな。中也さんは部下想いだから誰にでも優しい。俺の憧れだ」

「でも中原幹部は太宰幹部の相棒でしょう？だったらーーー……」

「彼の人は違う」


男の言葉を遮るように中也の部下は云った。

「彼の人は………違う」

もう一度、同じ事を云った。

「そんなに違うんですか？」

「違う」

「あんなに綺麗で可愛く笑う女性なのに？」

「何云ってんだ？！お前、止めておけよ！？って嗚呼……知らないのか！」

「……何をですか？」

焦ったように云った中也の部下は、少し長めの息を吐いて続けた。


「マフィアには暗黙のルールや嘘みたいな云い習わしが山のように存在するが………『太宰紬を女として見た人間は必ず死ぬ』この云い習わしは嘘じゃない」

「は」


真顔で紡がれた言葉に伝令の男はポカンとした。

そして、声を上げて笑った。


「あはははは！そんな真逆！」

「笑うな！本当に本当だからな！？この間も太宰幹部に手を握りながら盛大に告白した××さんが任務中に命を落とした！」

「それはその先輩の力量が足りなかったんじゃないですか？」

「そんなわけない！あの任務は中也さんも参加していた。戦力で負けない筈なのに××さんだけが重症を負って死んだんだぞ？！」

「……矢っ張り、力量不足じゃないですか」

「ぐっ…！」

薄々、そうではないかと思っていた事を正当に指摘されて中也の部下は言葉を詰まらせる。

「しかし、この噂が噂になるほどの何かがあるんだ！やめとけよ！」

「はいはい」

「信じてないだろ！？」

「全く」

真剣に語る男と笑い飛ばしながら返事をする男の温度差が激しい。
暫くこの討議は続いた。


「ところで何で先輩は何で青褪めたんですか？」

「………。」


そう指摘されて中也の部下は忘れかけていた昨日を思い出していた。