第17章 芽生
「一寸~寝ないでよ?!」
「五月蝿ェ……」
目元を覆うように置かれた手の甲を見て、太宰が中也の入眠を邪魔する。
「待って、ホント。中也で遊べなくなったら私、暇じゃん!」
「知るかよ!だりィって何度も云ってンだろーが!」
時刻は丁度、日付の変更を告げる時間だった。
そんな深夜に大の大人がギャーギャー喚き合う。
だから気付かなかったのだ。
「大体、何で俺の面倒なんて看に来たんだよ!」
「紬に会いたいだけに決まってるでしょ!?中也なんて二の次だよ!」
「だったら放置してくれや、頼むから!」
「だって暇なんだもん!中也で遊ぶ以外、すること無いじゃないか!」
「俺は玩具じゃ無ェ「ねえ」……」
「……。」
中也の叫びに別の声が交ざり、直ぐに深夜帯の静けさがこの部屋にも訪れた。
その別の声の主は満面の笑みを讃えながら2人を見ている。
一瞬にして顔を青くした2人は、何も云うことなく自主的に寝台の上に正座した。
「ただいま」
羽織っていた外套を脱ぎ、手に持っていた中也の帽子と共に壁に掛ける。
その所作を黙って見ている双黒ーーー。
「おや、返事がない。そっか。帰宅を望まれてないってことか。どこに出掛けようか」
「「お帰りなさい」」
声を揃えて返事する2人に紬は内心でクスッと笑った。
「その他に云うことは?」
「「ごめんなさい」」
「まあ、判ってるならいいや」
紬は溜め息を着くと中也の額に手を当てた。
「未だ熱いね」
「……寝れてねェからな」
「一寸、私のせいにする気!?」
「手前ェのせいだろーが!」
「はいはい、そこまで」
云い合いを遮り、中也に横になるように云うと素直に従う。
「暫くの間、休みを取れるように手配したから」
「はあ?休みだと?」
「仕事大好きな中也の為に云っておくけど首領の許可も貰ってるよ」
「……。」
「『痛覚』も数日後には戻すから其れまでにある程度は回復して」
中也の頭を撫でる紬。
そんな紬を後ろから抱き締める大きい子供が1人。
「治も明日から此処に帰ってくるでしょ?」
「紬が此処に帰ってくるなら」
「帰ってくるよ」
「じゃあそうする」
だから撫でて、と云わんばかりにぐりぐりと背中に額を擦り付ける太宰。