第17章 芽生
暫く黙った後
「嗚呼ーーー紬が動いている事が理由で考えたら……そんなに単純な話じゃ無いってワケね」
「そういうこった」
漸く理解を示した太宰を見届けて、中也は相手するのに疲れたのか目を閉じる。
「ねえ。なに寝ようとしてるの?」
「だりィんだよ。納得したんだろ?だったらもう話すことは無ェよ」
「理解はしたけど納得なんてするわけないでしょ。紬と一緒に過ごす時間が削られてるんだから」
「知るかよ」
ゴロン、と仰向けだった姿勢を太宰に背を向けるべく横向きに変える。
「ねえ。刺されたのって『左側』じゃないの?いくら痛みを止められているからって圧迫するような姿勢は如何かと思うけど」
「!?」
中也がガバッと身体を起こした。
驚くのも無理はない。
太宰に怪我の部位など『見せて』いないのだ。
2ヶ所も刺されたせいで肌が見えないほどにぐるぐると巻き付けられている包帯からは想像は出来ないーーー筈なのに。
中也は頭を抱え、話し『過ぎた』ことを後悔した。
「中也がこんな怪我をするくらいだ。中々に大変そうだねえ」
「思ってねェだろ」
「勿論、思ってないよ」
サラッと返す太宰に、最早、苛立つことも出来ない中也。
「だって既に目星は付いてるんだろう?」
「……。」
返事するか悩んだ末に、ああ、と短く答える。
「何れくらい?」
「………紬の見解じゃあ両手の指程度」
「そう」
話し過ぎた事を後悔したくせに律儀に答える中也を莫迦にすることなく淡々と会話を進める太宰。
「なあ太宰」
「なに?」
「何れで『左腹』って判った」
「……何で知りたいの?」
突然された質問に少し驚いたのか。
1拍おいて返される。
「何でって…そんなに簡単に手負いを見抜かれちゃあこれからの仕事に差し支えンだろーが。俺の失言なら気を付けなきゃなんねェ」
中也が云うことはもっともだろう。
昔ほどではないが中也の持つ破壊力を必要とする仕事は跡を絶たないのだから。
太宰は少し考えた末に、言葉を紡いだ。
「中也のお陰で紬が忙しい理由が判ったから」
「はあ?」
「あとは紬が私を寄越したからってところかな」
「……意味判ンねェ」
真面な答えなど返ってかないとは予想していたが。
中也は額に手を当ててぼやいた。