第16章 暗雲
「却説、と」
紬は電話を取り出す。
履歴から目的の番号を呼び出して、掛けた。
直ぐに相手は出る。
『……なんだよ』
「もう家に着いた?」
『ああ。一番近いトコ帰ったからな。今玄関ー……?』
「そ。私はもう一仕事してくるからちゃんと寝ておき給えよ」
『手前に云われるまでも無ェよ。身体だりィし……ってオイ!?何っ…』
中也が何かに気付いて大声を上げ始める。
「まあ、見張りが居ると思うから」
『はあ!?何で呼んだんだよ!寧ろ大人しく寝とけるわけ無ェだろーが!!!ちょっ…!糞太宰!それ俺が楽しみに取ってたヤツじゃねーか!!!』
『帰ってきた早々、五月蝿いなあー。酒の1本や2本でケチくさい』
ギャーギャー云い争いが始まったのが聴こえて紬は溜め息を着いた。
「中也、治に代わって」
『ああ?ったく……』
電話を投げつけて渡した事の不満をブーブー云いながら見張りは電話に出た。
「良いかい?治。中也に絶対に触らないで」
『ーーー怪我してるの?このチビ』
直ぐに触れてはいけない理由を悟る太宰。
誰がチビだ!?と怒る声が入るも無視する双人。
「そ。だから喧嘩も禁止」
『既に中也の方が喧嘩腰なんだけど』
「大人しく出来なかったらーー判ってるよね?」
『判ってます』
即答の返事に紬はクスクスと笑った。
「成るべく早く帰るから」
『うん、待ってる』
またね、と挨拶が綺麗に重なった後に通話を切った。
「そろそろ動きがあるかな」
時計をチラリと見る。
そして
「取り敢えず仕事に行くとしましょうかねえ」
紬は立ち上がると部屋を後にした。