第16章 暗雲
その様子に紬が声を掛けようと口を開いたその時、入室を報せる叩敲が響いた。
「入り給え」
「失礼します」
入室してきたのは芥川だった。
芥川は紬の前に立つ山吹をチラッとみてから一礼する。
「報告書を持って参りました」
「急に呼び出したのに重労働させて悪かったねえ」
「否。あの程度、重労働では」
「うふふ。流石、私の部下だ」
「恐縮です」
報告書を受け取ってニッコリと笑う紬。
「芥川君。樋口君は居るかい?」
「はい。執務室に」
「彼女を樋口君の元に連れていって報告書の作成要領の面倒見るように云って呉れない?」
「!?」
「私はこのまま次の仕事で席を外すから出来上がったら此処に提出しといて」
「御意」
芥川は一礼すると退室をするべく扉に向かった。
が、云われた筈の山吹が付いて来ずに疑問符を浮かべている。
「如何したんだい?早く行き給え」
「っ………!失礼します……」
山吹は慌てて退室していった。
何も話さずに樋口の待つ部屋へと向かう2人。
元より自分に興味がないのだろうな、と。
芥川に話し掛けられることが無かったので
今の、この状況に山吹は安堵していた。
「あ、済みません。化粧室に」
「……其処の角で待つ」
芥川なりの配慮だろう。
少し先の通路を差してそう云うとスタスタと歩いていった。
それを見てから化粧室に入る山吹。
暫くして出てきた山吹と共に
芥川は再び無言で樋口の居る執務室へと向かっていった。