第16章 暗雲
「何でも手前中心に考えるなよ。手前だから人員が割ける立案が出来ンだよ」
「煽てても何も出ないよ」
「誉めてンだよ、素直に受けとれや」
「……。」
机の真ん前まで近付いてきた中也に気付いて漸く顔を上げる紬。
「………何だよ」
ジッと見られて半歩下がる中也。
「急に誉めるなんて気持ち悪いこと口走ったかと思えばーーー熱あるでしょ、中也」
「はぁ?莫迦にすんなよ!?」
「否、冗談ではないよ」
「っ!?」
胸ぐらを掴まれ、ゴツンと額を引っ付ける紬。
「矢張り、熱い」
「……大したこと無ェよ」
「はあ。此れだから単細胞は」
パッと手を離す。
「君、車の手配してきて」
「っ!自分が運転を勤めますので何時でも可能です!」
「そ。じゃあこのチビ、家まで送ってきて」
「はあ?!大丈夫だってんだろ!?オイ、手前ェ等も離せよ!?」
「いいえ、無理はいけません!」
「此処は太宰さんの云う通りにすべきです!!」
2人の部下がズルズルと中也を引き摺って部屋を出ていく。
その扉が閉まる音を聞いて、山吹もハッとし、慌ててそれに続こうとした。
「私も「待ち給え」……!」
呼び止められてピタッと立ち止まる山吹。
流れる空気が急に冷たくなるのが分かった山吹の頬を一筋の汗が流れ落ちた。
「真逆、君も帰るだなんて云わないよね?」
「っ!」
ゆっくりと紬の方を向く山吹。
「誰を庇ってあんな大怪我を負ったのか、中也は結局、何一つ自らの口で私に話すことは無かった。あれほど嫌味を云われてもだ」
「……。」
「戦闘向きじゃない君を連れていったことも正直、如何なものかと思うけどね」
その冷気の発生源の1つである眼は、殺傷能力がありそうな程に鋭い。
「中也に付いて、守られるだけしか能がないならーーー君、マフィア向いてないよ」
「っ!?」
ハッキリと告げられた言葉に何も云い返せない山吹。
「今回の件、中也はあの様だし、君以外に状況を詳しく判る人物が存在しない」
紬は抽斗から用紙を1枚取り出して山吹に渡した。
「報告書。書き終わるまで帰宅できると思わないで」
その紙を受け取って暫く見詰める山吹。