第16章 暗雲
部下2人は何故、紬に。
自分達とは階級が桁違いの幹部直々に『個人的に庇われる』か身に覚えはなかった。
が、理由を察した中也は呆れた顔を紬に向けた。
「何だよ。手前が機嫌悪ィのは糞鯖のせいか」
「何だよって何だい?折角、久しぶりに電話してたってのに『中也が重篤じゃ』って姐さんの電話で遮られた私の気持ちが中也には判るかい!?」
「あー………一寸解らねえ」
「これだから単細胞のチビは」
「ンだとコラ………喧嘩なら買うぞ」
「その身体で?冗談はその考えの甘い脳内だけにしてよ」
「よーし。表出ろ。二度とそんな口叩けなくしてやるよ」
「はいはい。寝言は寝て云って」
ソファから降りて仕事机の椅子に漸く座る。
「で?だんまりの君は何か云うことは無いのかい?」
「!?」
鋭い瞳で射ぬかれ、山吹がビクッと肩を上げる。
「だから山吹は関係無ェっつってンだろ!責任なら俺だ。『判ってて』実行したんだから!」
「あー。煩い煩い。分かったよ。んじゃあ今回はそれで良いや」
中也の発言を耳を防いで聞き流し、紬は溜め息を着いた。
「せめて場所だけでも中也が指示すべきだったね」
「………そうだな」
紬は机の上に山積みにしている書類を読みながら呟いた。
中也達に一切、興味がない。
或いは、もう目の前には居ないーーー
そう云わんばかりに紬は書類整理に集中し始めた。
「あの……太宰さん」
「ん?何だい?」
それでも中也の部下2人に対しては普段通りの紬だったようだ。怒りを含まない声のトーンで返事が帰ってきたことに安堵の息を漏らす。
「何故、残党の殲滅があんなに容易に……」
「何故ってーーー」
紬は手を止めることも顔を上げることもなく空いていた左手で先程、テーブルに投げ捨てた書類を指差した。
「あれだけの情報が揃ってて苦戦する方が如何にかしてる」
「「……。」」
アッサリと。
そしてハッキリと告げられた言葉に返せる者など中也しか居ないだろう。
中也はハァ、と溜め息を着いて紬に歩み寄った。