第16章 暗雲
紬の執務室ーーー
この部屋の主はソファに横になりながら詰まらなそうに1つの紙束を読んでいた。
「なんつー格好で仕事してンだよ手前は」
「眠り姫にだけは云われたくないねえ」
「誰が姫だ!」
紙束をペラッと捲り、此方を一切見ずに答える紬。
「………悪かったな尻拭いさせて」
「良いよ別に。失敗しに行ったんでしょ?」
「……。」
「っ!?」
紬がパサリと紙束をテーブルに投げ置き、漸く顔を中也達に向けた。
ニッコリと笑顔を浮かべているが
その眼は全く笑ってなどいないーーー。
「でなきゃこんな穴だらけの計画書通りに任務を遂行するわけがないもんねぇ」
そう。
中也が山吹に初めて与えた重大任務ーー
この殲滅任務の計画を立てたのは山吹だった。
山吹がカタカタと震え始めたことに気付き中也がポンポンと背中を叩く。
「!」
中也はフッと笑って見せてから紬に一歩、近寄った。
「だから悪かったって謝ってンだろ」
「謝ってるのに態度でかいなぁ。大方、この計画立てたのは山吹君で、前線に自分が立てば『如何様にもなる』って思ったんだろうけど結果が重症だなんて嗤うに嗤えない」
「手前が俺の力量不足を笑いたいのは充分に分かった。が、それなら山吹は関係無ェだろーが」
「中也が動けなくなった今、誰が代わりに働くか分かって云ってるの?」
「手前だろ?」
「そうだよ。私だ。しなくていい仕事が回ってきて苛ついてる。その原因が中也だろうとそうでなかろうとその人間に責任取って貰わないと割りに合わない。今回の件は、彼女だろう」
「そんな苛つくくらいなら尻拭いなんざ行ってくれなくてよかったんだぜ?いや、寧ろ頼んでねェだろ。処分は受ける心算だった」
「別に中也の為に動いたんじゃないよ。勘違いしないでくれ給え」
紬はソファの背凭れ部分にヒョイと腰掛ける。
中也の正面に。
しかし、顔は中也の部下2人を向いていた。
「君達の仕事振りに感心していてね。君達が処分されないように動いたまでで中也と山吹君が如何なろうと別に如何でもいいんだよね」
「「!?」」
紬は中也達に向けていた笑みとは異なる、
本当に普段通りの笑顔を2人に向けた。