第16章 暗雲
「なあ、そんなに落ち込むならロビーに行ったらどうだ?そろそろ紬姐さん帰ってくると思うし」
「……何故、貴方にその様なことが解るんですか」
「いや、先刻、姐さんが云ってたじゃん」
「え。そうでしたっけ?」
「………全然、人の話し聞いてなーーー」
バンッ!
突然、勢いよく開いた扉に立原がビクッとする。
「中也が目を覚ました!立原、森殿を呼んできておくれ!」
「っ!はい!」
紅葉に云われて立原が直ぐに動く。
「小娘、主が山吹かえ?」
「えっ……あ、はいっ……」
そう云えば挨拶も碌にしてなかったことを思い出し山吹の顔が少し青褪める。
「中也が呼んでおる」
「!」
紅葉が袖を口許に当てながら呟く。
そして、扉の入り口からずれた。
「這入れ」
「「!?」」
その一言に山吹と広津が驚く。
「良いのですか?紬君からの許可は未だ無いが」
「佳い。中也が目覚めと同時に小娘の安否の確認をするなんて、よっぽどのことじゃ。責任なら私が負おう」
広津にそう云うと紅葉は再び入室を促した。
山吹は2人に一礼すると直ぐに部屋に入っていった。
「………紬君の機嫌が悪くならないか心配だ」
「安心せい。何の理由かは知らぬが、如何せ凡て紬の掌の上じゃ」
「!成る程」
そう会話しているところに先刻、この部屋に居た中也の部下2名が伝令として参上する。
「太宰幹部から伝令です。『通常任務に戻るように』と」
その言葉を聞いて顔を見合わせる広津と紅葉。
「ほら、私の云う通じゃろ?」
「そのようで」
「「?」」
タイミングのよい伝令を聞き終えて納得する2人によく判らず反応に困っている伝令、こと中也の部下2人。
「紬に中也が目を覚ましたと伝えておくれ」
「「っ!?は、はい!今すぐに!!」」
2人は物凄い勢いでその場を去っていった。