第16章 暗雲
部屋に居る人物が寝ていると云うわけではないのに
山吹は物音立てないように静かに寝台に近付いていった。
「ーー気配を消すのは止めろ。警戒すンだろーが」
「っ!!」
ビクッとして、直ぐに寝台に歩み寄る山吹。
其処には先刻まで目を閉じていた中也が座っていたーーーー
「中原さん………」
だけでなく壁に掛けていた上着を扱っていた。
泣きそうな声で名を呼ばれたことにギョッとして手を止めて山吹の方を見る中也。
「なっ……何だよその声。泣いてンのかァ?」
「………っだって~~~…………」
「しぶといだろ?」
「………本当に……良かった………」
グスッと鼻を啜る山吹の頭を撫でる中也。
「手前は怪我は?」
「中原さ……庇っ……おか…傷……無……」
「無くか喋るかどっちかにしろよ」
中也は苦笑しながら云った。
暫く何も話すことなく山吹が口を開くまで中也は上着を触り始めた。
「………何を?」
「ん?予定帳捜してンだよ。明日以降の任務の確認のためにな」
「予定帳なら………太宰幹部が………」
「あ"?紬が?」
一瞬で声のトーンが下がった中也に笑いが込み上げる。
「……泣きやんだかよ」
「!」
ポツッと云われた言葉。
呆れながらも優しい笑顔で紡がれた言葉に山吹は思わず目を見開く。
「泣きすぎだ手前は。顔、真っ赤じゃねぇか」
「っっ!!!いやっ、これはっ……!や、そうですねっ!?」
「何だその反応」
「何でもありません!」
首を振って全力で返事する山吹を首を傾げながら見る中也。
そんな和やかな雰囲気だったからか。
「ーーーお邪魔だったかな?」
「「!?」」
コソッと此方を窺いながら話し掛けてきた人物の気配に全く気付かなかったのだ。
「しゅ…首領…!」
山吹は慌てて膝を折る。
「申し訳ありません、首領」
「謝ることはないよ。大怪我してきたことは感心しないけどねえ」
「……済みません」
軽く触診を行い、森は笑って云った。