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【文スト】対黒・陰

第16章 暗雲



「………。」

扉の外のやり取りが完全に聞こえない程の防音力を誇る部屋。
紅葉は、その部屋に入ると直ぐに扉の向こう側を見透かす様に眺めてから施錠する。
そして寝台へと近付いていった。


先刻とは違い、寝台を使用していた人物は座っていた。


「!なんじゃ、もう目を覚ましておったのか」

「はい。と云っても今ですが」


ベッド脇に腰掛ける紅葉。
『目を覚まさない』と騒いでいた紅葉は何処に行ったのだろうかーーー。

それほどに落ち着いて中也と話している。

「森殿が大量に解毒剤と催眠剤を投与したと云っていた割には目覚めるのが早いのう」

「あー……あんまり薬が効かねぇから仕方ないですよ」

未だ完全に抜けきっていないのか。
普段よりゆっくりとした口調で答える中也。


紅葉は中也が目を覚まさない理由を本当は知っていたのだーーー。


「痛むかえ?」

「いや全く」

「そんなわけ無かろう。かなり深い傷にみえたのじゃが?」

「ああ……矢張りそうですか」

「?」

そう云いながら刺された傷の内、片方の。
『左腹部』を擦りながら中也は目を伏せる。


「じゃあ紬の『終焉想歌』せいでしょうね」

「!」


頬をつねっていた時、紅葉が手を叩いた。
あの時点で、紅葉には何も起こらなかった。

そして、その後に頭を撫でてやっていた事を思い出す紅葉。

「……何だかんだで紬は心配性じゃな」

「彼奴は怪我を嫌いますから」

俺のことじゃないけど。
と小声で付け足す中也をキョトンと見て、吹き出す紅葉。

「珍しく弱気だのぅ?中也」

「……別に」

「紬が態々見舞いにきて異能まで掛ける相手なんぞ太宰以外にお主しかおらぬぞ?」

「……知ってます」

中也の頬がほんのり朱色に染まる。
フイッと紅葉から顔を反らした中也の仕草にクスクス笑う紅葉。


暫く和やかに話してから紅葉は話を切り出した。

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