第16章 暗雲
「何で…!だって私、今まで中に居たんですよ!?」
離席してから数分後、山吹は元の場所へと戻ってきていた。
が、その入口で立ち往生している。
「そうは云ってもな。紬姐さんの命令で通すわけにはいかねえんだよ」
立原は頬を掻きながら同じ説明を繰り返す。
『入室を禁止する』
紬が黒蜥蜴に命令している場面に、確かに山吹も居合わせた。
「でもっ…私はこの中にっ……!」
山吹も同じ主張を繰り返す。
対応に困り、立原は広津に視線を送った。
やれやれ。と云わんばかりに息を溢す広津。
「君は確かにこの部屋に居ることが出来たーーー『あの時点では』ね」
「!」
あの時点……
「我々だって同じだよ。紬君に『命令』されるまでは入室に許可など要らなかった。ーーーつまり」
広津は煙草に火を着けて、云った。
「警備の為に退室した時点で『我々ですら入室をすることは許されない』ーーー此処は『幹部』だけしか使用しない特別な部屋だ。中に窓も、天井からの通気孔も一切無い。侵入経路はこの扉だけだからね」
含んだ煙を吐き出しながら山吹に静かに説明する広津。
「再び入室したいのであれば直接、紬君の許可が必要だ」
「……っ」
納得はしたようだ。
しかし、何かを考えている様子の山吹。
「太宰幹部は外出中ではありませんか……」
「そうだな。しかし、彼女の事だ。敵組織を殲滅するのにそう時間は掛かるまい」
「芥川の兄貴も一緒だしな」
「!?」
2人の言葉に驚く山吹。
そして、何かを思い付いたのかハッとする。
「太宰幹部は不在ですし、尾崎幹部に許可を頂ければっ……!」
「「駄目だ」」
「!?」
綺麗に重なった声で否定されてビクッとなる山吹。
「なんで……っ」
「それがルールじゃ、小娘」
「「「!?」」」
いつの間にか紅葉が立っていた。
手短に報告を済ませる2人。それをサラリと聞いて紅葉は山吹の方を見る。
「紬が命を下した時、私はその場に居た。その時、私は何も申しておらぬ」
「………それが一体、何……」
「判らぬか」
紅葉は呆れた眼を山吹に送った。