第16章 暗雲
「いえ……あの……それは」
「まどろっこしい。はっきり申せ」
バサッと云った紅葉に、ビクッとしながら山吹は口を開いた。
「やっ……あのっ……太宰幹部と中原さんはその……恋仲なのかな……と思いまして……」
「「「……。」」」
山吹の言葉に全員がシーンとなる。
暫くの無言の末、紅葉は頭を抱えて息を吐いた。
「主の目は節穴か?どこの世界に危篤の恋人に対して悲しむおろか頬をつねり、大事にしているモノを勝手に持ち去る奴が居るのじゃ?」
「いや、でもっ……代わりに仕事を……こうして警戒まで……」
「あの場で動かずとも遅かれ早かれ首領から紬に後始末の命が下るところ。こやつ等は『相棒』だからのう。互いの尻拭いは互いが行う義務がある。それならば敵が体勢を立て直す前ーーー早急に動いた方が幾分かはマシな筈じゃ」
「警戒は?」
「もし内部でその様な算段を企てる者がおれば、それは立派な背反行為。内部調査を行うのは紬の専門じゃ。未遂なら未だしも既遂ならば、直接的にしろ間接的にしろそれに関わった者凡てを処分しなければならぬ。未遂なら紬が心配せずとも目を覚ましたあとで中也が自分で何とかするじゃろうて」
「……成る程……」
「それにな小娘」
紅葉は口許に袖を当てながら山吹真っ直ぐ見ている。
「紬には真に大事な者が他に存在する。中也なんぞ比じゃあない。先刻の対応で驚くなら、其奴が有事の場合の対応は、無関係でも心臓が止まるぞ」
「「……。」」
紅葉が話し終わる前に広津と立原が顔を背けた。
それほどにか、と。
山吹はそれ以上の質問をすることは出来なかった。