第16章 暗雲
「中也が部下を大切に思っていることも、その逆も周知の事だ。しかし、今の中也は無防備。何も出来ないと云う点では赤子と同じだ。そして此処は『ポートマフィア』。幹部の地位を簒奪しようと企てる人間が内部に居ないとは云い切れない」
「あ……。」
中也の部下に紛れての可能性を忘れていたようである立原が小さく声を漏らした。
「今の話を踏まえて君達2人に命じよう。『鼠一匹、この部屋を通すな』ーーーいいかな?」
立原と広津は頭を垂れて『是』の意を表した。
「芥川君は私と出るよ」
「!?」
芥川の顔が驚きを表す。
「この様子だと任務は『失敗』している。本当はものすっごく気乗りしないけど尻拭いに行くよ」
「も……申し訳ありませんっ……!」
伝令に行った男2名が謝る。
「その状況下で君達は最善の判断をした。咎めたりはしないよ」
紬はニコッと笑う。
「これから先の事を考えれば『敵の殲滅の失敗』よりも『中也を失う』事の方が損失が大きいーーーねえ?姐さん」
「無論じゃ」
紅葉も同意するも、2人の顔は暗かった。
「しかし、相手は今頃、戦力を立て直し、増援を」
「だってよ芥川君」
紬は芥川に話題を振った。
「構いません。幾ら敵が居ようと僕の相手ではない」
「ふふっ。期待しているよ」
紬は帽子を被り直して笑った。
「では、姐さん。私は少々、出掛けてきます」
「うむ。手土産は其奴等の首で善いぞ」
「うふふ。判りました」
行くよ、芥川君。と
紬は芥川を引き連れて退室していった。
それに、男2名も続くように出ていく。
「紬が動くなら私はすること無いのぅ」
中也の頭を撫でながら紅葉は微笑んだ。
「落ち着かれましたかな?」
「うむ。矢張り、伊達に相棒しておらぬな」
「なんだかんだで仲が良い」
「本人達は全力で否定するがのう」
和やかに話す広津と紅葉を山吹はいつの間にかジッと見ていた。
「なんじゃ?小娘」
「あっ……。いえっ……その………」
普段なら話すことすら儘ならない幹部との接触に戸惑う山吹。
「そう云えばお主、先刻、紬に何か云いかけておったのう?」
「!」
山吹はハッとする。