第16章 暗雲
ポートマフィア本部ーーー
その建物を入った時点で慌ただしい気配が充満しているところに紬は帰社した。
その騒々しく動く者の中の1人が紬に気付く。
「だっ…太宰幹部!」
「場所は」
「第三治療室ですっ……!」
紬は云われた場所へと向かった。
到着すると何の合図もなしに入室する。
中に居た黒の男2名がバッと懐に手を入れて振り向くも紬の姿を認識した瞬間に膝を折った。
白を基調にした部屋。
自分の執務室程の広さのある空間のメインは寝台。
使用中のようだ。
そのサイドに寝台を使用している人間の手を握り締めて俯いて座っている女性と、派手な着物を着た女性が立っていたが、後者は紬に気付くと手招きをして自分の傍に呼びつけた。
「紬っ…!!中也がっ……!」
「姐さん、落ち着いて」
「これが落ち着いていられるか!目を覚まさぬのじゃぞ!?」
「……。」
そう。
寝台を使用しているのは紬の相棒である中原中也だった。
紬は中也をジッと見詰めた。
そして呆れ気味に息を吐いて、云った。
「ーーーまた誰かを庇ったのか」
「っ…!?」
中也の手を握っている山吹の肩が僅かに上がった。
「中り、か。やれやれ。相変わらずお人好しだねえ私の相棒は」
「背中と左腹部の2ヶ所を刺されています。1つは急所付近を、しかも刃に毒が仕込んであったようで………」
先刻、膝を折って挨拶した黒の男が紬に説明をする。
中也が面倒をみている部下2人だ。
「庇ったのは………その」
「山吹君でしょ」
「「「……。」」」
その場に居た筈が無いのに、凡ての状況が判っているかのように紬はハッキリと云った。
「黒蜥蜴……広津さんと立原くん、それから芥川君に伝令して。『現段階における凡ての任務を放棄して私の元へ』とね」
「「はっ!」」
男2名は直ぐに去る。
「如何するのじゃ紬」
「如何もしませんよ」
紅葉にハンカチを渡しながら紬は苦笑した。
「第一、私が出来ることを強いて挙げるならば、中也を殺して楽にしてあげることだけですよ?」
「っ!?」
ガタッ。
山吹が立ち上がって紬を睨んだ。