第15章 首輪
会議が終わって化粧室に行っていた山吹。
先に洗面所で手を洗っていた人物の隣に行き、声を掛けた。
「太宰幹部」
「んー?何だい?山吹君」
「2つばかり良いでしょうか?」
「2つと云わず、3つでも4つでもどうぞ」
ニコッと笑って云う紬に少し呆気に取られるが、質問したかった事よりも気になることが出来て「お言葉に甘えて」と付けてから指を差した。
「………結婚……されてるんですか?」
「ん?ああ、コレか」
右手の薬指に嵌まっている指輪。
普段は自分の直属の上司と同じで黒の手套を着用しているため気付かなかったのだ。
「『虫除け』だって」
「虫除け……ですか……?」
「仕事中は大抵、手套嵌めているけど、休みの日は外していることが多いのだよ」
「嗚呼……」
納得したのだ。
体型も顔も整っているが故に寄ってくる男も多いのだろう、と。
「ってことは矢っ張り、好い人からの贈り物なんじゃ」
「うふふ。そうだねえ~兄たちからの贈り物なのは間違いないよ」
「御兄様ですか!」
「そ。」
「太宰幹部の御兄様なら綺麗なんでしょうね」
「綺麗かどうかは判りかねるけど同じ顔をしているよ。双子だからね」
「えぇ!?」
ハンカチで手を拭いて手套を嵌める。
「それで、後の2つは?」
「あ、そうだった。太宰幹部の予期せぬ行動で中原さんの予定が狂いっぱなしなのですが」
「ああ、君には迷惑を掛けているね。申し訳ない」
「いやっ!私は構わないんです!しかし、中原さんは」
「それこそ如何でも良いよ」
「…え?」
ヒラヒラと手を振る紬。
「中也、君に云わなかったの?予定が狂わなかったことは無いって」
「あ……。そう云えばその様な主旨の話は」
「でしょ。何時もの事だから気にしないで」
化粧室から出てからもならんで話を続ける紬と山吹。
「そうですか………それではもう1つです」
「うん」
「………………何故、殺される真似を」
紬は笑っていた。
「先刻も云ったよ。『退屈』なんだ。そうだ!これから彼の元へ出向くところなんだ。一緒に如何だい?」
山吹は、お茶でも誘うかの如く云った紬に着いていくことにしたのだった。