第14章 双子
「うん?どの話だっけ?」
「あの大学生の死亡が偽装って……」
「ああ、そのこと」
ぽん、と。
手を叩いて応じる紬。
「治は何も云ってなかったかい?」
「え……そういえば………」
『敦君。あの部屋に這入った時に何か感じたことは無いかい?』
『感じたこと、ですか?うーん………窓が開いていたことと、なんか薬臭いってこと以外は特に』
『それさ』
「部屋に入った瞬間に『窓が開いていた』ことと『薬臭かった』って云ったら『それだ』って云われました」
「それだね」
「え?」
「窓を開けて、と云うことは換気をしたのだろうけど大学生たちは既にこと切れていたのだろう?」
「はい。死亡推定時刻は昨日の午後8時から9時頃らしいです」
「君達が発見して駆けつけるまでに半日以上経っていたのに『薬臭い』と判るほどだった。可笑しい話じゃあないかい?」
「!?」
「死亡原因とされたのはその薬品を混合させたことによって生じた有毒ガスだ。それほど気になったならば君達だって毒ガスにやられても可笑しくない」
「………でも僕たちは平気だった……?否、でも!その後に具合が急激に!それこそ紬さんが解毒剤を投与してくれたんじゃないですか!」
敦は紬の方を見ながら話す。
「『塩素ガス』が引き起こす主な障害は「呼吸不全」。治療するならば酸素マスクによる酸素供給が必要で、解毒剤ではない」
「!?」
「つまり、だ。薬品の臭いが立ち込めていたとして『致死に至るほどの塩素ガス』が発生していたのか怪しいこと、また発生していたとして半日も窓が開いている状態で多少ならまだしも入室した時点で感じられるほどの『塩素ガス』が残ってるとは思えないこと。この2点を考慮すれば色々と矛盾が生じてくる」
「………そうなれば『偽装工作』かもしれない、と」
「そういうこと」
「今の話を市警にっ……!」
「必要ないよ」
「え?」
紬はニコッと笑って敦に云った。