第14章 双子
「……あの……大丈夫なんですか?」
「何がだい?」
「なんか怒鳴り声が此処まで聴こえてましたけど……それに芥川って………」
敦が恐る恐る訊ねる。
「大したことないから気にしないで良いよ。一寸のあいだ着信拒否しただけなのに怒鳴り散らかすくらい器の小さい男からの電話だっただけだから」
「いや……その中也って人……ポートマフィアの幹部の方じゃ……」
「?そうだよ」
「怒ってたみたいだし拙いんじゃ……芥川とか更に話が通じないから怒らせたら同僚でも直ぐに殺しに掛かりそうだし」
「うふふ。芥川君が私を殺す、ねえ」
敦の想像に、ニコニコしながら返事をする紬。
「………愉しそうですね」
「うん、とても愉快だよ。君の発想は私の想定の遥か斜めを行く」
「はぁ…そうですかね?」
「そうだとも」
紬は端末を仕舞って足を止めた。
気が付けば昼間訪れた大学の傍まで来ていたのだ。
「行くよ」
「えっ」
ヒョイッと塀を乗り越えて大学の敷地内に這入る紬。
正面から向かう気だった敦は一瞬だけ止まるが直ぐに紬の後を追っていく。
「何故、こんな真似を…」
「……。」
紬はジッと敦を見詰め、そして溜め息を着いた。
「敦君……君さ」
「はい?」
「私がマフィアだということ、忘れかけてないかい?」
「あ」
指摘されてハッとした。
忘れていた訳ではない。
隣に居ることに何の違和感もなかったのだ。
何時も通り、太宰の隣を歩いている気持ちだった。
「私は治ではないよ。忘れないでくれ給え」
「ははは……」
図星のため笑って誤魔化す敦にやれやれ、と返して紬は歩き出した。
目的の建物に近付き、足を止めて上を見上げる紬。
「窓が開いている、か」
「あの部屋が事件現場です」
「状況は?」
「部屋は薬品の瓶が散乱していました。2人は扉の前で、もう1人は窓のそばで発見されています。扉の鍵は開いていて鍵も彼等が持っていました」
「窓も開いていたの?」
「第一発見者の証言では」
「ーーそれが『黒』か」
「え?…って一寸、待ってください!」
敦が聞き返す前に紬は近くの樹を使って身軽に開いた窓から部屋へ侵入する。敦もそれに続いた。