第13章 協力
太宰は再び周囲を見渡す。
開けっ放しの窓
床にばらまかれた薬品の入っていただろう瓶
微かに匂う薬品の匂い
もがき苦しんで死んだと思われる3体の遺体ーーー
「……。」
太宰は近くにあった割れている薬瓶を手に取った。
「質問しても?」
「ええ」
瓶のラベルを見せながら太宰は講師と云った男の方を向く。
「この床に転がっている薬品は混ざると有毒なガスを発生させるーーーなんてことあります?」
「あります。先刻、警察の方にもお話しいたしましたがこの薬瓶は隣の部屋に保管されていたものです。主に『塩素系』薬品と『酸素系』薬品ばかりが散らばってますのでこの量からいけば呼吸困難に陥る程の塩素ガスが発生しても可笑しくはありません」
「そうですか」
コトッ
瓶を置いて窓の方へ歩く。
「しかしーーー家庭用洗剤でも起こりうる現象で世間でも知られている様な化学反応を、仮にも専門的に学習している生徒が知らないなんてこと無い筈ですよね?」
「私もそれは疑問に思うところですが……」
「如何かしました?」
眉間に皺を寄せて発言が途切れてしまった講師に問い掛ける太宰。
「劇薬は保管庫に仕舞ってあり、その鍵の管理は私です」
「ああ。保管については文部省から依頼通達がでてますからねえ」
「ええ。と、いってもこの程度の薬品の保管場所は鍵付きのガラス扉の棚なので割れば簡単に盗めはしますが」
男は太宰の方を見る。
「しかし、保管場所や薬品の種を知っていると云うことは『内部』の人間以外考えにくい」
「……。」
太宰はフムフムと納得しながら講師の話を聞いている。
が、その目は青褪めている生徒2人をとらえていた。
「見て貰えれば判りますが、その保管庫は見事に割られており、其処から盗んだ薬品たちが此処に転がっているようです」
「となると、その死亡した生徒達が薬品を盗んで自らばら蒔いた可能性が高い、と?」
「はい。大学と云えど、研究室にはそう簡単に侵入できるわけではないので薬品の保管場所を知っている彼等の犯行なのではないかと」
「……。」
太宰はチラッと第一発見者の学生2人を見ている。
青い顔。
僅かに震えている身体。
ーーーーー『黒』か。
太宰が小さく息を吐いたその時
「太宰さん!」
敦が鑑識の男たちの傍から声を掛けたのだった。