第13章 協力
「解毒剤かい?」
ソレーーー何かの液体が入った注射を行っている男が、その行為のために床に置いた箱を取り上げて紬は声を掛けた。
「っ!?お前、何で此処にっ…!」
「私達マフィアは薬の投与における拷問を想定して耐性が備わっているのだよ」
少し楽になったのか男が大声を上げる。
「コレは本物の様だね。頂いておくよ」
「くそっ!返せっ!」
「おっと」
男の攻撃をサラリと交わして、蹴りを入れる紬。
「折角この解毒剤を投与したのに入り口を開けっ放しにしていたら、君はあと何れくらいしか生きられないんだい?」
「っ!?」
男が慌てて別室の入り口を見る。
閉めた筈の扉が開いているのだ。
勿論、犯人は目の前にいる女に違いないのだが。
「残り3本かー。仲間を救って私だけ閉じ込めてガスが収まる頃に此処に戻り、既存の薬品でもばら蒔いて死亡事故に見せ掛ける心算ってところだったのかな」
「っ!?」
男がビクッと動く。図星のようだ。
「しかし、残念乍ら彼等は既に人生から退場してしまったよ?」
「………え?」
紬の言葉をポカンとした表情で聞く男。
しかし、直ぐにハッとする。
「いや……!そんなわけねーだろ……!だってこの薬は直ぐに効き始めるが2~3時間苦しんだ後にしか死には至らないんだからなっ!その間に血清を打てば間に合うんだよ!何も知らねー手前が俺を騙そうったってそうはいくか!」
「まあ、別に信じなくても善いよ。何なら確認でもしてきたら如何かな?」
「っ………!」
男は口元を袖で覆って仲間の元へと走っていった。
その後を歩いて追った紬が到着した時には男は口元を覆うことも忘れて必死に仲間の名を呼び掛けていた。
「やれやれ。軽はずみで此方側に足を突っ込んだりするからこうなるんだよ」
「っ…!ちくしょー!」
男は叫んで入り口へと向かった。
が、先刻も開かなかったのだ。
今も開くはずが無い。
「来るなっ……この人殺しがっ…!」
恐怖からなのか、
はたまた毒が再び回り始めたのか。
男はガタガタと震えながら吠える。
「そうだねえ。私は人殺しだ」
紬は静かにそう云うとスッと手を伸ばして
「だから君も直ぐに仲間のところへ送ってあげるよ」
男に触れたーーー。