第2章 双黒
武装探偵社―――
国木田は夜勤明けだと云うのに何時も通りのペースで報告書を仕上げるまで至っていた。
「ふぅ。後は社長に報告だな」
「いってらっしゃーい」
「~~~~っお前は………まぁいい」
ソファでゴロゴロしながら国木田を見送る太宰に怒りを覚えるも、疲れからか。
深くは構わず、直ぐにその場から去ると云う選択肢を選んだのだった。
太宰はパタンと閉まる扉を見詰める。
そして、仰向けに姿勢を固定して。
手で目元を覆いながら考える。
只のチンピラの類いや、下級構成員程度の人間なら確実に引っ掛かると確信していた。
でも、実際に事は起こらなかった。
侵入を企てた人間が来なかった可能性だってある。
国木田も云っていた。
依頼人が過剰に反応しただけ…………。
然し、太宰はそう思わなかった。
「紬の気配、か――…」
あの企業はチンピラなんかではなくマフィアに狙われるような事をしていた、と云うことだろう。
然し、それらしい人間なんてあの場に『居なかった』。
帰り際、すれ違った人間にすら、それを感じることはなかった。
となると、だ。
『マフィアに狙われるような事を主犯していた人間』にとってあの会社は隠れ蓑で、昨日までに逃げる準備を進めていた………。
今の情報だけで推測すると、こんなところだろうか。
紬が動いているとなると何か損害を与えることを仕出かしたのだろう。
それも結構な事をしていた筈だ。
紬が動く―――
紬を敵に回して生き残った連中など…今までに一人としていないのだから………。
今頃、あの時点で会社にいた人間は全員死亡している。
もう少し早く気付いていれば防げる手立てがあったと云うのに―――。
太宰の中を支配するのは後悔。
『社員を救えなかった』
此方ではない。
「紬……」
自分と同じ顔で笑う妹の顔を浮かべながら静かに呟いた。