第2章 双黒
誰もいなくなった建物から何事も無かった様に出てくる紬。
その傍をスイッと車が近づいてき、少し前で停車した。
紬は何の躊躇いもなく車に乗り込む。
「……昨日以上に難しい顔してんぞ」
「二日酔いの中也にだけは云われたくないねぇ」
車を発進させながら「煩ェ」とだけ云い返したところをみるあたり、図星のようだ。
「で?」
「『異能力者』が居なかった」
「……。」
車に積んでいたパソコンを起動し、USBを挿す。
カタカタカタカタ……
暫く操作して、何かを見つけたのか。
「中也、十八番街の南倉庫」
「おう」
今来た道を引き返すことになったが一切の不満を抱かずに中也は方向転換させて云われた場所へと向かっていった。
「何か判ったのか」
まだパソコンをカタカタと操作している紬に話し掛ける。
「ある日を境に、異能持ちの人間と社長側の人間が別行動を進め始めている。活動資金等は社長が上手くやっていたようだから報告は行っていたみたいだけど」
「ある日って……俺たちの荷物の横取り以降ってことか」
中也の言葉にコクッと頷く。
「まぁ…ある程度、此方の世界での活動基盤が出来た積もりなんだろうねぇ。だから会社を隠れ蓑にして私たちが本格的に動き出す前に逃げる準備を進めていたってことでしょ」
パソコンの電源を落として片付けて椅子を倒す。
着いたら起こしてとだけ云い、紬は目を閉じた。
『あ……あれ?貴方は……探偵社の方じゃ……?』
自分の姿を見て、云われた言葉。
武装探偵社――――か。
「治……」
「……。」
紬の呟いた言葉に対して何も云うことなく。
小さく溜め息をついて中也は目的地へと車を急がせたのだった。