第13章 協力
「治、その件は私たち側にも未だハッキリとした情報がない。それに出回っているのは新種の危険薬物『だけではない』のだよ」
電話の相手が読み通りだったことを知った中也は「矢っ張りか」と呟いて、紬の手にある封筒を取り上げ、中身を確認し始める。
『如何云うこと?』
「表沙汰になってないから知らないだろうが、先日から数名、その件を調査していた構成員が死亡している」
『…死因は?』
「不明。何らかの『毒物』…神経毒に付随する毒物だろうけど、蛇などに咬まれた痕や薬物摂取な形跡は無かった。恐らく『気体』の類いではないか、という程度の不確かな情報だ」
『やれやれ。何やら新しい何かがこの街を汚染しはじめているようだね』
「そう。だから、もう少し待つんだ。下手に動き回れば治とて危ない」
『そうは云っても市警から捜査依頼が来てる。動かないわけにはいかないのだよ』
「市警が市民に調査依頼……?この案件を?」
紬が疑問に思う。
『そう。マフィア側より黒社会に詳しくないにしてもそれなりの情報は持ち合わせている筈の市警がだよ?可笑しな話でしょ』
「…理由は」
『聴き込みで判ったことだけど『「若者」の間で、ヤる時に使うと確実に天国を見れる薬』なるものが流行っているらしい』
「『楽園』だろう、それ」
『それが噂では『小さな赤い錠剤』をしているんだって』
「!?」
紬は驚いた表情をする。
無理もない。
自身が述べた『楽園』の形状は桃色の錠剤
ーーー太宰が話したソレとは全くの別物ということになる。
『今日1日歩き回って唯一仕入れた情報だよ。色々と考えることはあるけど取り敢えずハッキリと云えることは、一般人が関わっているかーー』
「一般人を隠れ蓑にしているか、か」
紬は小さく息を吐いた。
「ねえ、治」
『何だい?』
「この件から手を引いて」
『……。』
「出来ないなら3日……否、2日でいい。待つんだ」
『心配性だなあ紬は』
「……。」
『明日も忙しくなりそうだし落ち着いたら一緒に過ごそう』
「……。」
『お弁当、美味しかったよ』
「……。」
太宰は返事を待ったのだろう。
暫くして「じゃあ、またね」と締め括られて通話が切れた。
紬は中也の肩にトン、と寄り掛かった。